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組織マネジメントシリーズ

組織マネジメントシリーズ

第2回 「物語」を紡げなければ経営者失格!

2010 年 5 月 7 日

自分の会社にも
 ストーリーあったらいいですよね~

「そのとき創業者は何と言ったか--。創業者の顔を知らない若手を集め、古株の役員が往時を語る。ファスナーの世界最大手のYKKがそんな試みを始めた」という記事を読みました(日経新聞3/22/10)。2009年度には6人の取締役が「社員との語らいの場」を各人2回ずつ計12回受け持ち、2010年度にはこれを30回程度に増やす計画だそうです。

 YKKのファスナーは世界市場の45%のシェアを持っていますが、「未開の市場に果敢に挑戦する企業風土が失われている」のではないかという危機感から、「一代でYKKの基礎をつくった創業者吉田忠雄の姿を見てきた自分たちの役割は、創業の理念を正しく次の世代に伝えることだ」と、役員たちは考えているそうです。

 この記事を読んで思ったことがあります。

 企業理念を「物語」として語れる企業は幸運だ。こういった企業には、創業者とか中興の祖とか呼ばれる人物がいて、このひとが言ったことやしたことを中心に物語をつむぐことができる。

 こういった人物が存在しない企業のホームページの多くには、企業理念の下にビジョンとかミッションとかバリューといった、ビジネススクールで使われている教科書から抜粋したような抽象的な言葉が並んでいる。そして、たとえば、「株主や顧客、取引先とともに成長しながらも・・・社会に貢献する」とか、「世界文化の進展に寄与する」とか、誰もが反対できないような立派な約束事が続くのです。しかし、こういった抽象的な言葉では株主はむろん社員の心さえも動かすことはできません。こういった企業の人事部長は、創業者が松下幸之助みたいな立志伝中の人なら、社員たちが一致団結して情熱をもって働くような企業風土や企業文化をつくることができるのになあ~~とうらやまく思っていることでしょう。

 でも、創業者が言った言葉を掲げるだけでは、社員の心や行動を変化させるほどの説得力はありません。

 人間の心を動かすには「物語」にする必要があるのです。

 たとえば、ホンダの社史で、「1980年1月に日本の自動車メーカーとして初めてアメリカで乗用車を現地生産する計画を発表、オハイオ州に工場を建設し、1982年11月に乗用車アコードの生産を開始した」と書かれていたとして、それは単なる歴史的事実を述べただけ。しかし、そこに、工場が完成したときに、「創業者の本田宗一郎が工場従業員と同じツナギ姿で登場し、1000人近くの工員一人一人と握手をした。自分たちにとっては『雲の上のひと』である創業者が、自分たちと同じツナギを着て現れ握手までしてくれたことに工員たちは痛く感動。外国企業への不安感がいっきょに消し去られ、労使関係がその後スムーズに進んだ」・・・と続けば物語になります。

 これに、もう少しオヒレをつけて、「宗一郎は、1981年に勲一等を授与されることになったとき、『技術者の正装は真っ白なツナギだ、だからオレはモーニングではなくツナギを着て皇居に参内する』と言う。いくらなんでも天皇陛下の前にツナギ姿では出られませんと、まわりが必死になって止めた」・・・というエピソードが続けば、これは、もう、企業理念を立派に伝える物語。どんな抽象的な言葉よりも感動を与えてくれる物語になっています。

 花王の尾崎社長は、「理念を社員の心に響かせるのは理念を具現化したストーリーを引用することが大切だ」と語っています(日経情報ストラテジー11/24/06)

 アメリカの企業が従業員へのストーリーテリングに注目するようになったのは1970年代ごろからだろうか。靴のナイキは70年代後半には、ストーリーテリング・プログラムを始め、創業にかかわった陸上競技の元コーチや元選手たち3名のエピソードを中心とする物語を、「未来に渡すべき遺産」として新入社員に伝え始めた。こういったストーリーテリングは会社が大きくなり大企業病を患うようになったとき、また、会社が危機を迎えたとき、より重要となる。ナイキは、1997年に、開発途上国の工場で労働者を低賃金で働かせて搾取していると内外の批判にさらされるようになった。こういった困難な時期を乗り越えるためには、社員のチームワークや結束が必要となる。ナイキはストーリーテリングに再度注目。シニア役員がストーリーテラーとなり、企業が過去から受け継ぎ未来に託すべき遺産を、本部長クラスから店舗店員にいたるまで、すべての従業員に語ってきかせているそうです。

 「物語」は社員へのインターナルマーケティングに必要なだけではない。ヨーロッパの高級ブランドは、ブランドにまつわる「物語」を持っているがゆえに、数世紀にわたる数多くの危機を乗り越え生き延びてきている。

 私たち人間が「物語」形式に影響をうけやすい(説得されやすい)傾向があることを証明する実験があります。

1. TVドラマのほうがニュースよりも説得力があることを証明したアメリカでの実験・・・18歳~25歳の女子大生の半分には、高校生が妊娠してしまったTVドラマを見せ、残りの半分には、十代の妊娠がもたらす問題を特集したニュース番組を見せた。実験前と実験2週間後に、なんらかの避妊手段を使うつもりがあるかどうかの調査をした。結果、ニュース番組を見た実験参加者には意図の変化はまったく見られなかった。が、ドラマをみた女性は、避妊手段を採用するつもりだと答える割合が高くなった。
2. 物語を読んでいるときに脳がどのように反応しているかを、fMRI(機能的MRI)で調べる実験・・・小説を読んでいる読者は(とくに登場人物に感情移入している読者は)、登場人物が本の中で感じていることやしていることをまるで自分自身がしているかのような反応を脳のなかで起こしている。たとえば、主人公がクルマのハンドルを握ったという箇所では、読者の脳内の運動に関係する神経細胞が活性化し、主人公がまわりを見渡しているときには、目の動きをつかさどる神経細胞が活性化していた。読者は小説のなかでの出来事を、自分自身の出来事として経験しているわけだ。
3. 今年後半に予定されている実験・・・事実をそのまま伝える新聞記事、ハリーポッターのような単純な小説、プルーストの「失われたときをもとめて」のような難解な小説を、実験参加者に読んでもらい、それぞれにおいて、読者の脳がどう反応しているかをfMRIで調べる。

 進化心理学者は、人間がなぜ物語を好むのかに非常に関心をもっています。いくつかの説があります。

1. 現実世界へのシミュレーション・・・・パイロットが実際に飛行機を操縦するまえにフライト・シミュレーションを使って訓練するように、物語を聞いたり読んだりすることで、現実世界でどういった状況にどう対応するべきかの練習をしているという説。その根拠は、世界中どこにでも、大昔から伝わる神話とか民話というものがあり、そのほとんどが共通のテーマをもっている。たとえば、男女のロマンスは、交配相手を獲得するための試練と苦難のストーリー。英雄伝説は権力闘争や社会的地位獲得のストーリーといった具合。つまり、我々の祖先は、摂食、生殖、共同体における権力争い(共同体における人間関係)をテーマとした「物語」を聞いたり話したりすることによって生存するための適応能力を強化してきたのだ。
2. 最初の「物語」はウワサ話・・・・人間の祖先である類人猿は300~400万年前に群れを作って暮らすようになったころからウワサ話が好きだった(といっても、当時は言葉はなく、非言語的コミュニケーションを使った)。ウワサ話は、誰が信頼できるやつで、誰がウソつきで、誰がケンカをしてはいけないやつで、誰が交配相手として最適か・・・・など、グループ内で生きていくために必要な情報を得る手段だった。ウワサ話は数十万年前に言葉が生まれることによって、より活発になり、いまでも、わたしたち人間はうわさ話が大好きだ。1997年の研究では、公共の場所における人々の会話の65%はウワサ話であり、その主要テーマは、その場にいない人物について批評する・・・ことだそうです。

 人間がそもそも言葉を話すようになったのは、他人を説得するためだったと言われます。共同体で社会生活を営むなか、他人に自分が望む言動をとってもらうように仕向けるために言葉を喋り始めた。ウワサ話を通じて、仲間をだまして食べ物を独り占めしたワルの評判をおとしめ、グループ全員でシカトして懲らしめるのもその一例です。そして、グループ全体でマンモスを狩るような大仕事をするためには、十年前に自らの命を犠牲にしてマンモスの足にヤリを突き刺した人物について物語形式で話すことが、聴衆の感情移入を誘い、グループの結束を固めるもっとも効果的な説得方法であることも発見したのです。

 世界中で歴史を越えて語り継がれてきたストーリーは、太古の昔の共同体で、誰もを魅了した人物のウワサ話から始まったのかもしれません。その人物に関するウワサを聞いたひとは、その人物に感情的にひきつけられ、彼のもとに集まり、彼の命令なら命がけの狩猟にも喜んで出かけていったことでしょう。そして、そういったウワサが他の共同体にまでひろがり、世代を超えて伝えられることによって、本田宗一郎の例のように物語として発展していったのです。

 豊かなエピソードをもった創業者や中興の祖を持たない企業はどうしたらよいのでしょうか?

 物語はフィクションです。新たにつくりあげればよいのです。・・・といって、まったくなかった出来事をでっちあげろと言っているのではありません。現場を探せば、エピソードは見つかるはず。たとえば、CRMで有名になったホテルのリッツカールトンや日本のディズニーランドの物語をつくっているのは、お客様が期待している以上の親切な行為をした現場の従業員のエピソードだ。

 ウソはダメでも物語りにするためにはある程度の脚色は必要だ。欧米の一流ブランドのストーリーには100%事実ではないエピソードがかなり含まれている。第二次大戦後のアメリカで生まれた高級化粧品会社の多くの創業者の生い立ちは、なぜか、ヨーロッパの貴族で戦火を逃れて新大陸にやってきた・・・ということになっている。本当は、貧しい移民の子だったにもかかわらず・・・。最近、シャネルの創業者ココ・シャネルの生涯をたどった映画が2本つくられ上映された。両方とも見たのですが、父親に捨てられ孤児院で育てられたこと以外は、かなり違った脚色になっていた。でも、どちらの映画が真実に近いかどうかは問題ではない。どちらの物語(映画)のココ・シャネルのほうがより多くの観客の共感を得られるか、つまり、より多くのファンをつくることができるかが重要なのです。

 人を魅了する物語には、必ずといっていいほど、人を魅了する人物が登場します。だから、企業やブランドを社員や顧客にとって魅力的なものにするためには、人間を登場させなくてはいけません。企業理念とかビジョンとかミッションとかブランド・プロミスとかブランド・アイデンティティ等々をきちんと決めることは、経営陣の考えを整理しまとめるために必要なことではあります。が、顧客や社員に情熱や思い入れを持ってもらうためには、つまり感情的に結びついてもらうためには、企業やブランドに人間性を持たせることが必要です。つまり、AさんBさんといった人物が登場する物語が、そういった抽象的概念を裏づけなくてはいけないのです。

 日本企業は、社員に対しても、あるいは、消費者に対してのブランディングにしても、物語づくりがあまり上手とはいえない気がします。感情的になるのをなんとなく照れくさく思う生真面目さ、それとも謙虚さの表れか? つくられた製品をみてくれれば、他製品との違いがわかるはず、フィクションなんて余分なものは必要ないという職人気質なのか? 

 しかし、「物語」がつくれないひとには説得力がないのです。だから、経営者失格なのであります。そして、そういった考えを読者の皆様に納得させることができなかったとしたら、ブログの筆者である私にも説得する能力がないということになるわけです。ですから、みなさま・・・ブログを読んで浮かんだ疑問などさっさと忘れ、「なるほど!ガッテン」してしまってください。

参考文献:1.「企業の理念、語らい継承」、日経新聞 3/22/10、 2.「業務革新を持続させるリーダーの条件」日経情報ストラテジー11/24/06、3. Eric Ransdell, The Nike Story? Just Tell It! Fast Company, Com. 12/19/07, 4.TV Drama Can Be More Persuasive Than News Program, Study Finds, ScienceDaily 2/11/10, 5. Jeffrey M.Zacks. et. al. Reading Stories Activates Neural Representations of Visual and Motor Experiences, Psychological Sicence Volume 20 No and Motor Experiences, Psychological Sicence Volume 20 No. 8, 2009 , 6. Jeremy Hsu, The Secrets of Storytelling, Scientific American Mind, August/September 2008, 7.Patricia Cohen, Next Big Thing in English: Knowing They Know That You Know, The New York Times, 4/1/10 8. Frank T. McAndres, The Science of Gosship: Why We can’t Stop Ourselves, Scientific American , 10/1/08

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