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消費者調査シリーズ

消費者調査シリーズ

第1回 消費者はウソをつく

2008 年 6 月 9 日

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日本とかアメリカといった成熟した消費者市場は、1)新商品のヒット率の低下と2)ヒット商品でも寿命が短い・・・といった二重苦に悩んでいる。こういった問題 を解決するには、「もっと顧客の声を聞く」ことが一番の解決策だという考え方が一般的のようだ。売買取引において、売り手が買い手のことを知ることはむろん最重要事項だ。

だが、「顧客の声を聞く」ことが「顧客を知る」ことには必ずしもつながらない。

なぜなら、消費者はウソをつくからだ。

fMRI脳科学は1990年代から大きく進歩した。fMRI(機能的MRI)とか PETや光ポトグラフィーといった非侵襲的脳機能画像技術の実用化が進んだからだ。ヒシンシュウテキなんて舌をかみそうな名前だが、人体に損傷を与えるこ となく脳のなかで何が起こっているか外からチェックできる技術。最近はテレビのドキュメンタリー番組でもよく取り上げられるのでご覧になった方も多いと思う。頭のまわりに器具をつけた被験者がテレビを見たり誰かと会話をしたりしているときに、脳の中のどの神経細胞がどのくらい活性化しているかを見ることができる。

アメリカのスーパーボール中継は視聴率が高いために、コマーシャルは30秒のスポットで260万ドル(2007年の場合。このときは米全世帯の63%が番組を見たという)の高値がつくことで有名。一年間でもっとも多くの視聴者に見られるコマーシャルの好感度を、アンケート調査による結果と、fMRIで調べた結果とを比較するという実験が2006年に実施された。全国紙「USA Today」の調査ではビールのバドライトのコマーシャルが、経済紙ウォールストリート・ジャーナルの調査ではフェデックスが好感度一位に選ばれている。 ところが・・・、fMRIをつけた被験者にコマーシャルを見てもらった結果は、アンケート調査の結果とは違っていた。

たとえば、人間の脳のなかには報酬系と呼ばれる「快・不快」の「快」の感情を生み出す領域がある。おいしい食べ物、セックス、お金、美しい芸術作品、面白い映画や漫画のことなどを考えるだけでも、ドーパミンが脳内に放出されて 「快」の感情を感じる仕組みになっている。実験では、報酬領域以外にも不安に関係する部位や否定的反応を抑えようとする部位などもチェックされた。その結果、一位に選ばれたのは、調査結果とは異なりディズニーのコマーシャルだった。

消費者は意識的にウソをつくこともある。「このコマーシャルが好きだと答えたら子供っぽいと思われるのではないか?」と考えて本当の答を言わないこともあるだろう。意識的ウソは見破ることもできる。問題は、無意識的につくウソだ。たとえば、スーパーボールのコマーシャルの実験をした神経科学者は「TVを見て楽しい時をすごさなければいけないと思っている視聴者は、(たとえコマーシャルを見て否定的感情を持ったとしても)無意識的にその感情を抑制しようとする傾向がある」とコメントしている。

この20年間で急速に進歩した脳科学のおかげで、私たちは消費者が購買決定をしているときの脳の中の動きを知ることができるようになった。その結果、現在の「消費者の声をきく運動」に打撃を与えるような三つの事実が明らかになっている。

  1. 消費者の意思決定は感情優位である
  2. 消費者の記憶はあやふやである
  3. 消費者は言葉では考えない

この3点については拙著「マーケティングは消費者に勝てるか?」(ダイヤモンド社)でも書いているが、その後も新たにわかってきた面白い事実がある。なんといっても、この分野は日進月歩の新しい研究分野なのだ。

独断度100%のコメント
P&Gが2001年にクレアロールから買収したハーバルエッセンス・シャンプーは日本でも2004年に再投入された(1999年にクレアロールの親会社の米製薬会社ブリストルマイヤーズが販売したことがある)。「快感シャンプー体験」を強調したコマーシャル、覚えていますか? 航空機内の洗面所で外国人女性がハーバルエッセンスでシャンプーし、「イエス、イエス、イエス」と快感を口にするものです。アメリカでは、より強くセックスを想起させるバージョンがテレビに流されて物議をかもしました。女性が叫ぶ声がorgasmic sound(辞書でチェックしてね!)だというわけです。で、私は勝手に想像するのです。米バージョンのコマーシャルを日本のターゲット女性に見せて、好 きか嫌いか?を質問したら、「好きだといったら下品だと思われる」とか考えて「嫌いだ」と答えた。それでアメリカ版コマーシャルを放映するのは止めた。で も、彼女の脳のなかの報酬系は強く活性化していたかもしれないぞ・・・。ちなみに、アメリカのハーバルエッセンスシャンプーのコマーシャルは「ポルノまがい」だとか「品がない」とか悪い評判も多々ありましたが、売上げは順調で、パンテーンとともにグローバル市場でP&Gのヘアケア製品のシェアを上げるのに大きく貢献しています。

参考文献 1.Marketing News May 1, 2006, Advertising Age、2.Pittsburgh Post-Gazette, Sept. 6, 2007
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