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サービスを科学するシリーズ

サービスを科学するシリーズ

第5回 アマゾンが目指すパラレル型物流センター

2009 年 11 月 18 日

英国Amazonの配送センター。 なんだかビル街のミニチュア模型みたいですね。
Cc: evadedave / flickr

 先日、某通販企業のカタログを見て4個の商品をファックスで注文した。ファックスを使った理由は深夜で電話での受付は終了していたから(なぜ、ネットで注文しなかったのかって? その理由はあとで・・・)。 1週間後に電話がかかってきて、注文した4個の商品の1個の商品番号が1ケタ抜けているので確認したいとのこと。「なぜ、もっと早く電話をかけてこないの? ネットでの注文なら、とっくの昔に配送されているわよ!」と、昔ならプッツン切れて怒鳴っているところだが、年齢を重ねたぶん丸く(?)なっている。まあ、そのぶんズルくもなっていてるわけで、タラタラ文句をいってから、「おたくの注文処理の効率が悪いんだから、そのぶん、特別の配慮をもって早く送って」と強く言ったら、数日後には4個とも配達された

 やろーと思えばできるんじゃない~~。

 そのとき、そもそも、なぜ、この企業のウェブサイトで注文しなかったのかを思い出した。一度、試みたのだが、ネット注文する場合は、あらためて会員登録をしなくてはいけないのだ。すでに長年、注文していて、「お客様番号」だって持っている。なのに、ネットは別物だからと、再度、住所・氏名、その他を記入しなくてはいけない。めんどくさいから途中で止めたのだった。

 アマゾン創立者のベゾスCEOが好んで使う言葉は顧客体験(Customer Experience)だが、それでいえば、この某通販企業の顧客体験は余り良いものだとはいえない。

 ネット通販が伸びているのは、必ずしも安いからだけじゃない。アメリカでも日本でも、ユーザーは価格を比較はしても、多くの場合、常日頃使っているサイトに戻って購入していることが多い。①使い勝手が良いインタフェース、②迅速な配送、③安い(顧客は商品の安さよりも、配送費無料のほうを好むという報告がある)、そして、④商品の選択肢がたくさんあること。顧客志向どころか顧客にとりつかれているといわれる男をCEOに持つアマゾンは、この4点を提供することを目標として、(そして、⑤その過程で問題が発生したときには迅速に対応することによって)、顧客に安心感・信頼感を与えることでリピート購買率を高めることに成功している。

 この5つの顧客体験を満足いくものにするためには、かなりの先行投資が必要で、米アマゾンは、①ウェブサイト(インターフェース)、②物流センター、③サーバー、④顧客サービスセンター(コールセンター)にお金をかけたために、1995年の創業から、利益を出すまでに10年かかっている。2000年には20 億ドルの借金があり、そのくせ、配送費の低減化を積極的に進めたために、ウォール街のアナリストのなかには、現金がなくなって会社はつぶれるだろうと予言する者さえ登場したくらいだ。

 さすがのベゾスCEOもこのままではいけないと思ったのだろう。フルフィルメント・プロセスの効率や生産性を上げるための人材を外部からスカウトした。客から注文を受けてから商品の配達を完了するまでのフルフィルメント・プロセスにかかる経費は、ネット販売企業にとって販売管理費で最も大きな割合を占める。人件費ひとつをとっても、米アマゾンの物流センターに働く従業員は、全従業員数の40%を占める。当時、フルフィルメント経費は売上の15%。そのせいもあって、アマゾンの営業利益率は2000年にはウォルマート並みの3%。とてもハイテック企業の利益率とは思えないほど低いものだった。

 シックスシグマと在庫管理の専門家としてジェフ・ウィルケがオペレーションの最高責任者としてスカウトされた。ウィルケは、ばらつきをなくす従来のシックス・シグマに、無駄をなくすトヨタ方式(リーン方式)を組み合わせたリーン・シックスシグマを採用して、フルフィルメント・プロセスの効率化をはかり、フルフィルメント経費の割合を売上の15%から8.9%に落とし、結果、営業利益率も2000年の3%から2008%年には6%にまで増大した。

 コスト削減に成功した結果として、配送費を無料化に限りなく近づけ、また、利益を出しながら商品を安く売ることができるようになった。もちろん、フルフィルメント・プロセスの効率を上げることで、翌日配送も可能になった。

 ネットで注文してから商品が客に届くまでのプロセス全体をみると、フロントエンドとバックエンドの大きなギャップに驚かされる。フロントエンドでは処理能力の高いコンピュータ・システムに支えられ、使い勝手のよいパーソナライズされたインタフェースが実現されている。だが、その後に続くバックエンド、とくに物流センターでの作業は基本的に昔のまま。ピッカーが商品が置いてある棚に出向いて、商品をピックアップして、ベルトコンベアにのせ、パッカーが梱包して発送する。バーコードやスキャナーを使いIT化が進んだとはいえ、基本的な作業の流れは100年前と変わらない。つまり、ネット販売会社を含め通販会社の物流センターは、1908年にヘンリー・フォードがT型フォードを大量生産するために開発した流れ作業方式(ベルトコンベアに部品をのせ順番に単純作業を加えていくシリアル方式)をいまだに使っているのだ。

 だから皮肉なことに、ニューエコノミーの代表格のアマゾンすらも、在庫管理やシックスシグマの教えを乞うためには、オールドエコノミーの企業で在庫管理やシックスシグマを専門としたジェフ・ウィルケの力を借りたのだ。

 フロントエンドはWeb2.0でも、バックエンドは、チャプリンの映画「モダン・タイムス」の「オートメーション」のままなのだ。

 商品をベルトコンベアで運ぶシリアル方式は、膨大な種類の商品を膨大な数の個人客にコスト安に同日発送することへの限界壁となっている。もちろん、アマゾンもそれなりに工夫している。たとえば、米アマゾンの物流センターのなかには、複数商品の一括配送に特化しているセンターがある。そういった倉庫の棚には、本が置いてあるかと思うと、その隣にはスターウォーズのフィギュア、その下には寝袋といった具合。カテゴリーのまったく違う商品が同じ棚に置いてある。データ分析して、一人の顧客がいっしょに買う確率が高いものを近いところに置く。そうすれば、ピッカーがピックアップしやすい。そして、センター内の異なる場所で異なるピッカーによってピックアップされた商品アイテムが、ベルトコンベアにのり、最終的に同じシュートに到着することを可能にする高度なソフトウエアが開発されている。シュートで待機しているパッカーは一人の顧客が注文した複数商品が集まってくるのを待ち、それを梱包して、発送用のベルトコンベアにのせる。

 基本的にはシリアル方式だが、まあ、少しは、パラレル型に近づいている。

 2003 年、本当の意味でシリアル方式から180度転換したパラレル方式の物流センターを提供できる企業が創立された。ボストンに本社を置くキーバ・システム(Kiva Systems)だ。創立者のミック・マウンツCEOは、インタビューで、21世紀型物流センターの仕組みを思いついた理由を次ぎのように話している。

「ブレインストーミングで、労働力の安い中国で物流センターを作るとしたら、どうするか?って話になったんです。そのとき、ボクはこう言ったんです。数百人の人間を大きな倉庫に並ばせ、一人一人に異なる商品を持ってもらう。そして、ボクが注文データを見ながら、倉庫中にひびく大声で叫ぶんです。商品番号112番と、1500番と561番の商品をもっているひと、ボクのそばにきてくれ!って」

 彼は、安い労働力の人間を、オレンジ色の「お掃除ロボット」のようなモバイル・ロボットに変えた。そして、数百個のロボットがコンピュータの指令に基づいて、物流センターのあちこちにおいてある小さな棚の下にもぐりこみ、棚をひょいと持ち上げて、ピッカーがいる場所まで持ってくる。人間が在庫を取りに行くのではなく、在庫のほうから人間のほうにやってくるのだ。そして、棚を戻すときにも、どこに戻すべきかは、スピードや生産性が上がるようにコンピュータが制御する。回転の速い在庫がのっている棚はピッカーの近くに置かれ、回転の遅い在庫棚は倉庫の片隅に配置される。下のURLで紹介ビデオを見れば、英語の説明がわからなくても、ピンと理解できる。
http://www.kivasystems.com/demo/index.html
ピッカーのそばに、棚がやってきて自分の順番を待つ。行列の先頭の棚から商品がピックアップされてその棚が去っていくと、待ちかねたように後ろの棚がしゃしゃり出る。棚が生き物に変身したみたいでカワイイ。

 シリアルじゃなくてパラレル・プロセス・・・つまり、複数の作業が同時に進行するのだ。

 ベルトコンベヤーのような固定された自動化設備を設置する必要もなく、一人の従業員で一時間当たり2~3倍の注文を処理することができるから、従業員数も少なくてすむ。高度な制御ソフトウェアで動くモバイルロボットを数百個必要とするだけだ。通常なら完成するのに一年以上かかるのに、キーバ・システムだとコンクリートづくりの倉庫を4ヶ月で稼動可能な物流センターに変えることができる。

 商品棚がやってくると、ピックアップするべき商品がどれかセンサーが光るようになっているから、間違いも減る。スピードも正確性も向上する。商品棚の動き(つまり、モバイル・ロボットの動き)を制御をしているサーバーには、顧客が注文をすればそのデータがリアルタイムで入ってくる。顧客のコンピュータと物流センターのコンピュータが直結しているのだ。すでに、ウォルグリーンやステープルなど大手企業が採用しており、キーバシステムは2009年にアメリカで最も急成長している企業500社のうち6位にランクされた。

 このキーバシステムを採用した物流センターを、靴のネット通販としてこれまた急成長しているザッポスが2008年に採用した。そして、このザッポスをあのアマゾンが2009年7月に買収してる(ザッポスについては、『サービスを科学するシリーズ2』を参照してください)。結果、ザッポスのモバイル・ロボット方式のパラレル型物流センターをアマゾンが利用するようになるだろうといわれている。ベゾスは、2009年夏に、自分の資金700万ドルを、産業用ロボットを作っている会社に投資したとも報じられている。つまり、モバイル・ロボットをつかった物流方式の将来性を強く感じているということなのだろう。

 フルフィルメントは通販企業にとって、コスト的にも時間的にもボトルネックだった。ネット通販において、よりいっそうの、1)配送時間の短縮と、2)商品アイテム数の増大が進む中、この二つをコスト効率よく実現するパラレル型物流センターは、やっぱり注目度No.1なのではないでしょうか・・・

参考文献:1.Zappos.com Implements Kiva Mobile Fulfillment System in Four Months, Business Wire 6/24/08, 2. Mick Mountz, Fulfillment: The Unexpected Key to Successful E-Commerce, E-Commerce Times 2/11/08, 3. Nick Wingfield, Amazon Prospers on the Web by following Wal-Mart’s lead, The Wall Street Journal 11/22/02, 4. Joe Nocera, Put Buyers First? What a Concept, The New York Times 1/ What a Concept, The New York Times 1/5/08, a Concept, The New York Times 1/5/08, 5. Brad Stone, Can Amazon be the Wal-Mart of the Web? The New York Times 9/20/09参考文献:1.Zappos.com Implements Kiva Mobile Fulfillment System in Four Months, Business

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