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マーケティング NOW 2012

マーケティング NOW 2012

NOW1 O2OではなくてO2Sの話です。最後に勝つのはネット専業ではなくて店舗小売業か!?

2012 年 2 月 2 日

 O2Oという用語を見て、H2OとかC2Oとかいった化学式を思い出したとしたら、それは、あなたが常識ある人間だということです。これをオンラインToオフラインの略語だなんてフツ―思わないでしょう(って、そう思うのは私だけ?)

 2010年の夏に、米ベンチャー企業TrialPayのCEOが某雑誌に、「オンライン上の見込み客を店舗に誘導して購買にむすびつけるプロセスを、B2CとかB2Bにならって、私は、online-to-offline(O2O)コマースと呼びたい」と書いたのが、この新語の始まりだと言われます。

 (このTrialPayという会社のビジネスモデルはちょっと変わっていて、もしかしたらO2Sの話より面白いかもしれないので紹介します。たとえば、ネットで新商品を買うとして、通常はクレジットカードで支払う。だが、無料でゲットすることもできる。ただし、その場合は、TrialPayが提案するいくつかの商品やサービスの中から選んで購買しなくてはいけない。たとえば、ネットの花屋で50ドル分の花を買えば、新商品は無料になる。つまり、使ったこともない商品を買うべきかどうか迷っていても、バラの花を50ドル買えば無料にすると提案されれば、ためしに買ってみても損はないと思えるかもしれない。試用(Trial)を促すことになる支払システムだから、TrialPay。そして、この例では新商品販売会社は獲得した注文数に応じて広告料金をTrialPayに支払う・・・・フリー(無料)にも、アイデアしだいで、いろいろあるもんだ!)

 オンラインからオフラインに客を誘導するやり方は、2008年に創業したグルーポンといった割引クーポン共同購入サービスが人気を呼び、注目されるようになりました。日本でも、2010年にリクルートのポンパレが登場。クーポン共同購入サービスは、広告と実際とがちがっているという問題が発生したこともあって、期待されたほどの成長はしていません。が、O2Oコマース普及のきっかけとなりました。

 その後、ケータイにGPS機能がついたり、スマホの利用が進むことによって、たんなる割引クーポンで誘導するだけでなく、それに+αをつけることによって、割引(価格)競争におちいるのを避ける試みも進んでいます。たとえば、ゲーム感覚にアピールするクーポン。アディダスジャパンのニュースレター登録会員に、ある日突然、時限クーポンつきメールがおくられてくる。時限クーポンの配信と同時にカウントダウンが始まり、店舗に到着するまでの速さによって、もらえる特典がちがってくる。 「最速で直営店にたどりつき、アディダス史上最大の会員特典をゲットせよ!」・・てなわけです。

 GPS機能付きのケータイなら、いまいる場所に近い店舗のクーポンを配信することができる。

 でも、ゲーム性を強調しようが、位置情報を利用しようが、割引は割引。結局は、どれだけ安いかで競うことになる。

 同じ、O2Oでも、サービスというか便利さを強調するものもあります。たとえば、アメリカ最大のドラッグストアチェーンのウォルグリーンは、スマホにRefill by Scan(スキャンして補充)というアプリを提供しています。処方箋についているバーコードの写真をとって、それをウォルグリーンに送信すれば、指示した最寄りの店舗で指定時刻にクスリがうけとれるシステムです。便利さがうけて、2010年3月に始めたサービスですが、2011年秋には200万人が利用しているそうです。

 日本でも、「Google ローカルショッピング」というアプリを利用すれば、自分が欲しい商品がいま自分がいる場所近くのどの店舗にいけば在庫があるかどうかがわかります。現在、東急ハンズ、マツモトキヨシ、無印良品やローソンの在庫情報が検索できるようになっています。

 ・・・・長々と書いてきましたが、この記事で書きたいのは、こういったO2O用のサービスとかアプリの話ではありません。(・・・ずっこけますよねえ? ゴメンナサイ)

 ネット専業小売業と店舗とネット(ウェブやケータイサイト)2つの販売チャネルをもっている小売業と、どっちが競争優位にたてるのか?・・・といった話にうつります。この話は、以前に、サイトから店舗へ(Site to Store)という記事で書いたことがありますが、そのつづきです。

 日本でも、良品計画(無印良品)が2011年5月から、ネットで注文をして指定した店舗で商品をうけとれるサービスを始めました。マルイは2009年から、「ネットで選んでマルイで試着」と、買う前に試着できることを強調するサービスをつづけています。ネットで注文した洋服が数日以内に指定店舗に届き、そこで商品をうけとる。実際に着てみないと似合うかどうか不安な洋服の場合などは試着してから購入できるわけです。

 アメリカでは、こういったO2S(online-to-store。私がつくった造語です。語呂も悪いので流行らないことまちがいなし!)サービスは2005年ごろから採用が進みました。2007年にはウォルマートが2年間のテストをへたうえで、全国展開を開始。テストでは、このサービスを利用する顧客の60%が来店したついでに平均$60の付加購買をすることがわかっています。いったん店舗に入れば、つい、ついで買いをしたり衝動買いをしたりする。それが$60の付加購買です。しかも、店舗までとりにきてくれるのだから、個別の配送費もかからない。

 こういったことから、当時でも、店舗もネットも含めたマルチチャネル販売をしているところは、ネット専業に比べて競争優位にたつのではないかと予測するアナリストもいました。

 その予測どおりというか・・・・。アマゾンは、2011年の7~9月四半期の売上高は前年対比44%と好調で「不景気にかかわらずやっぱり強い」と一般的には騒がれた。が、その実、純利益は、前年から73%減と大幅に下がっていた。アマゾンの純利益は、これで、3四半期連続して減益となっています。

 原因のひとつが、物流への投資。アマゾンは、翌日配送を可能にし、無料配送での経費負担を軽減するために(2010年の配送費は売上の4%)、物流センターを増大。2010年に52か所だったセンターを11年には69か所に増やす予定。こういった物流設備にかかる費用は前年対比で65%増です。

 それに比べて、ウォルマートはすでにあるプラットフォーム、つまり3800店舗や150の物流センターを利用できる。そのうえ、O2Sで店舗での商品うけとりを誘導すれば付加購買も期待できる。

 アマゾンの過去5年間の平均営業利益率はわずか4%。アメリカのディスカウント・ストアや百貨店の平均は6%だから、ネット専業としては低すぎる。(もっとも、日本の小売業の平均2%に比べればずっとまし)。

 考えてみれば、デジタル化をどれだけ進めても、どうしてもできないのは、物理的商品を梱包して配送するプロセス。スタートレックのようにテレポートできない限り、最後までのこる部分。つまり、どんなに進んだITを駆使するネット販売であろうと、デジタルでないリアルな商品を個別にしかも迅速に配送する経費は高く、利益率を大きく下げる。

 日本の通信販売の数字をみると、通販会社の対売上高物流コスト比率は2010年度で11.7%(日本ロジスティクスシステム協会調べ)。小売業のなかではむろんのこと、全業種のなかでも最も物流コストが高いことがわかる。

 つまり、ネット小売業でデジタル化できない商品を販売する場合には、物流がネックになる。だが、ある程度の数の店舗をかかえるマルチ小売業であれば、店舗を利用して物流経費を軽減あるいは、その経費をカバーするだけの付加販売をあげることができる。

 アマゾンは、世界一の総合小売業を目指して、1) 最大級の品ぞろえ、2) 低価格、3) 便利なショッピング体験・・・の3つを「うり」にしてきた。ウォルマートもおなじように品揃えや低価格を「うり」にしてきたが、ネット小売業、とくにアマゾンのような小売業に比べると、便利なショッピング体験という点では、負けっぱなしの感がある。

 が、ここにきて、2つの点から、ウォルマートの巻き返しが期待される。

 第1に、ウォルマートが本腰をあげてネットに力をいれるようになったこと。第2に、ネットスーパーへの進出です。

 2011年、ウォルマートはKosmixというeコマースやソーシャルメディア・テクノロジーに優れたシリコンバレーの会社を買収。その会社の創業者はウォルマート・グローバルeコマース担当上級副社長となり、すぐに、次の3つの仕事に着手している。

1. レコメンデーションとかパーソナライゼーショといったアマゾン並みのインタフェースをWalmart.comサイトに採用する
2. モバイル端末のマーケティング利用を促進するために、スマホ用のアプリ開発
3. ソーシャルメディアを利用して来店を促す(たとえば、店舗商圏内のソーシャルメディア上での会話を分析して各商圏にそくした関連性高い品揃えをする)

 ウォルマートは、また、ネットと店舗との連動をうながすために、2011年2月より、各店舗の商圏内におけるネット売上をその店舗の売上として付加するようにしました。日本でも、店舗小売業がネットショッピングを採用しようとするとき問題になるのが、「店舗の人間」の抵抗です。O2Sのシステムをつくっても、店舗側の人間の協力がなかったら、効果は発揮できない。ウォルマートは、ネットの売上を店舗売上に加算するという思い切った決断をすることで、店舗側の人間が顧客にサイトの利用をすすめたり、iPad、iPhone、 Facebookのアプリを積極的に紹介するように動機づけできる。

 国内市場の成長が頭うちのウォルマートは、まだ未開発の大都市市場に進出したい。そのためには、売上高の2%しかないネット販売を伸ばす必要がある。また、ネットスーパー(宅配サービス)も展開しなくてはいけない。ということで、カリフォルニア州サンホセで2011年にテストを始めています。

 そして、このネットスーパーの分野では、ウォルマートはアマゾンに比べて絶対的に競争優位にあるはずです。

 アマゾンは、一部の生鮮食品や日用雑貨品を宅配するサービス(日本でいうところのネットスーパー)を2007年からシアトル地域でテストしている(英国とドイツでは2010年に全国展開)。配送方法や配送費などいろいろ変えてテストをしているが、アメリカでも全国展開する用意があるといったあとで、否定したり、方針が定まっていない。2011年6月にはベソスCEOみずから、「ネットスーパーは非常に経費がかかるサービスだ」と認めています。

 この点、ネットスーパー世界一の小売店テスコが英国でしているように、店舗を物流センターとして利用できるウォルマートは、アマゾンより絶対的に有利な立場にあります。

 ということで、やっぱり、物理的商品を取り扱うならオンラインもオフラインのチャネルも利用できるマルチ小売業ということになる。が、日本の店舗小売業は、あまりにもオンラインチャネルの採用スピードが遅すぎる。逆説的にいえば、店舗をお荷物とみなし資産として前向きに利用しようという考え方がないから、オンラインチャネルの利用が遅れているのだ。なぜなら、店舗を資産として積極的に利用しようと考えれば、オンラインでの積極的活動が選択肢のひとつとして出てくるはずだから。

 デパートがやっとネット販売に力をいれ始めたといっても、店舗商品との連動ができないのでは、何の意味もない(場所を貸しているだけで、自社でリスクをとって仕入れている商品が少ないので、連動ができない)。

 また、マルチチャネル化が進んでいるファンケルやオルビスといった化粧品会社の場合、無印良品などに比べて品ぞろえが少ないので、店舗に誘導しても、衝動買いとかついで買いとかがあまり期待できない・・・という問題がある。 

 (それで思い出したが、ネットスーパーでの注文だと、買う食品が必要なものだけに限られてしまう傾向が高いらしい。店舗で買えば、ダイエットのためには食べてはいけないデザートとか揚げ物とか、つい衝動買いしてしまう。だが、ネットで注文するときにはその欲望を抑えらえるというわけだ。だから、ネットスーパーでも、自宅配送以外に、選択肢として、商品を袋にいれておくので、自宅への帰り道に立ち寄ってくれ・・・というのもある)。

 やっぱり、お店は大事なのだ。

 とはいえ、ネット専業小売業が店舗販売に進出するというのも、単純すぎる発想だ。店舗の運営は固定費が高い。たしかに、Appleはアップルストアで成功しているが、ある程度高額でしかも継続してつかってもらえるIT機器と、安い衣料品や日用雑貨品とは利益額も利益率もちがう。

 結局、レガシーシステムとして店舗を持っている企業が、一番競争優位にたっているということらしい。

 コンピュータ用語でレガシーシステムといえば、一時は、時代遅れとなった古いシステムであり、新しいシステムに更新すべきという議論がつよかった。が、「近年は、レガシーシステムは重要な情報資産であり・・・新規システムと連携・統合させ、いかにこれを有効活用すべきかといった形で論じられることが多くなった(@IT用語辞典)」そうだ。店舗とネットの関係みたい。

 でも、レガシーシステムをかかえていながらも、新しいシステムも採用できるという、ある意味矛盾したメンタリティーをもった企業というか経営陣って、なかなか存在しないんだよね。

 ・・・ということで、レガシーという言葉で、なんとか煮え切らない記事にうまくオチがついた。

 ホッ~(・・・と、一息つく)。

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参考文献: 1. Alex, Rampell, Dollar Opportunity, Techcrunch.com, 8/7/10, 2. Chris Gullo, Walgreens lets customers order refills via SMS, Mobihealthnews. com10/12/11、3.店舗とECの相互集客「O2O消費」を後押し、日経デジタルマーケティング2011年11月、4. John Letzing, Amazon’s Spending Habit: Profit Plunges as Cost Rise, The WSJ. com, 11/26/11、5. Wade Roush, Inside WalmartLabs: How the Former Kosmix Team Plans to Help the World’s Largests Retailer Get Social and Mobile, Xconomy .com 8/1/11, 6. Sleeping Giant at Walmart Wakes–Its Vast Workforce, AdvertisingAge, 11/27/11, 7. Gareth Halfacree, Amazon looks to grocery shopping with Amazon Fresh, Expert Reviews 6/11

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