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マーケティング NOW

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NOW19 顧客サービスをやりすぎると・・・(数字が教えてくれるザッポスの真実)

2010 年 7 月 28 日

都内某デパートの化粧品売り場でジュリークのハンドクリームを買おうとしたら、な、な、なんと! 売り場がなくなっていた。皮膚アレルギーが少しある私は、ハンドやボディクリームはジュリーク製品しか使わない。そして、オーストラリア産の自然化粧品はけっこうお高い。某デパートでは洋服も買うし、洋服を買うのは大好きだし、年間累計購買金額でいけば優良顧客セグメントに入っているほうだと思う。

 「なのに、売り場がなくなるというのに案内も来なかった!」とむかついても、フツーは、お店に文句を言ったりしない。メンドクサイし、ジュリークを売っているデパートは他にもある。ところが、この某デパートを出ようとしたら、出口のところにインフォメーションデスクがあり、そこに内線用電話機がドンと置いてあった。しかも、時間もあった。で、お客様相談室とかなんとかいう係りに電話をして苦情をいったら、化粧品売り場の責任者から電話をさせるという。

 で、その日、自宅に、その某責任者から電話がかかってきた。「売り場がなくなるというご案内は、ジュリーク製品の価格改定のおしらせといっしょに郵送いたしました」という。そんなDMがきていたかもしれないが、宣伝DMと思って、きちんと読まずに捨てたかもしれない。

 それは、まあ、どーでもよい。

 だけど、「お客様にご迷惑をおかけして申し訳ございません」とひたすら丁寧に謝る責任者と話していて、なんとなくムカツク。相手の話し方に何かが足りないと思うのだが、その理由もわからないまま、「あなたの話し方はマニュアルどおりだし、型どおりにあやまられても仕方がないから、もういいです」と電話を切ろうとしたら、(そこはちょっと感心したのだが)某責任者が食い下がって、「あのぉ、お客様、私の話し方のどこがいけないのでしょうか?」と聞いてきた。

 質問されて、私は、ハッと気がついた。

 なぜ、相手の応対に不満を感じているのかわかったのだ。

 聞いてみた。「この電話をかける前に、私のデータをご覧になりました?」「・・・・・・?」「私が、たとえば、化粧品売り場で他にどういった化粧品を買っているかとか、年齢がいくつくらいだとか、デパートで他にどういった売り場を利用しているかとか・・・・そういったデータをチェックしてから電話をかけてきたんでしょうか?」 「・・・・いいえ」

 もし、顧客データをチェックしていれば、某デパートの化粧品売り場で私が利用しているのはジュリークとシャネルだけで、しかも、ジュリークはボディー製品だけ、シャネルはメークアップ製品だけ・・・と、かなり、かたよった買い方をしていることがわかるはずだ。そうすれば、「うちで買ってくださっているのは、ジュリークとシャネルだけなんですね。そのジュリークの売り場がなくなってしまったのでは、お客様もお困りでしょうが、うちの化粧品売り場にとっても問題です」とか、もう少し、私という個人に関連性(レラバンス)の高いトークができたはず。そして、私がそのトークに反応して、ちょっとばかしうちとけた口調になったら、「XXXのハンドクリームはお使いになったことがありますか? ジュリークほどにはしっとり感はありませんが・・・」と他商品をすすめることもできる。

 頑固者の私は、そういったオススメにはのらないだろうけれど、少なくとも、マニュアルから離れたパーソナライズされた・・・とまでいかなくても、2人の人間がかわす会話らしいトークもできたはずだ。

 もちろん、すべては、化粧品売り場の責任者の責任ではない(彼女は彼女なりにけっこう奮闘していた)。たぶん、この某デパートは、売り場の人間が、「売り場にとって最低限必要な顧客データ」すらも直接チェックできないような旧近代的なシステムになっているのだろう。店舗小売業にはよくあることだ。そして、経営者たちは、データ活用のなさを批判されれば、自分たちを正当化するために、個人情報保護法を遵守しているからだと、的外れなことを口にする。

 ネット販売をふくめた通販企業で、苦情や質問の電話を受ける担当者は、まともな会話を成立させるのに必要なデータにはアクセスできるようになっている。だから、つっこんだ話しもできる。顧客データにもアクセスできない店舗販売員は、こういった通販企業のサービスに勝つことはできないだろう。

 結局、多くのデパートは、顧客データベースを蓄積保存しても、ポイントカードを発行するだけで終わっている。そのポイント・プログラムも、5%~10%の値引きをしている割には、顧客のロイヤルティを高めて顧客を囲い込むという本来の目的を達成する効果も果たせていないという惨めな状況で終わっている。せめて、蓄積したデータを分析してマーケティングに利用したら?といわれているが、それもない。それとも、購買客にカードをレシートといっしょに返すときに、「お客様、有難うございました」じゃなくて、「加藤様、有難うございました」とカード会員名を読み上げることで、お客様が「わっ、パーソナルなサービス!」と感激してくれるとでも思っているのだろうか?

 顧客サービスって、いったい何だろう?

 ・・・の話しを完結するために、もうひとつの過剰な顧客サービスについて考えてみます。

 顧客サービスのやりすぎ・・・といったら、アメリカの靴(中心の)ネット通販会社ザッポスの名前が頭に浮かぶ。ザッポスの顧客サービスについて、また、2009年にアマゾンに買収されたことについては、以前にも書いている。日本でもザッポスについては本など出版されているから、知っているひとも多いはず。1)返品するときも含めて送料は無料、2)買ったあと365日以内なら返品できる、3)嬉しいサプライズを提供するために、優良顧客には要望がなくても翌日配送をすることが多い、4)顧客とのパーソナルで感情的なつながり(Personal Emotional Connection)を築くために電話での会話を強調。コールセンターは年中無休の24時間体制、5)もちろん、一時間でも早く顧客に届けるために物流センターも24時間体制で年中無休。

 お金かかりそう~~!

 そのとおり。

 ザッポスは、驚くほど手厚い顧客サービスをウリにして、2000年の160万ドルから2008年に10億ドルを突破する急成長を達成している。だが、いつも、過剰な顧客サービスからくる(売上の割りに)高すぎる経費とキャッシュフローの問題に悩まされてきた。だいたいにおいて、2008年の返品率が37%! ということは、売上が10億ドルを達成した(正確には10億1400万ドル)とはいっても、返品を引いたら、6億3000万ドルということだ。しかも、優良顧客ほど返品率が高くて50%だという。ということは、ザッポスは、優良顧客が増えれば増えるほど、売上があがっても、返品率は限りなく50%に近づくってこと?

 2008年の純利益はわずか1%。たしかに、日本の小売業も利益率は非常に低く、2008年や2009年には損失を出している企業も多い。しかし、顧客サービスで急成長!ともてはやされている企業の純利益が1%は少なすぎないだろうか? (ちなみに、ほとんどの商品を仕入れているために粗利益率も低く、送料無料や迅速な配送で経費がかかっているアマゾンでも2009年の純利益は4%くらいだ。ついでに、日本の優良小売業であるファストリテイリングの2009年8月期の売上が6850億円で、純利益が7%だった。まあ、ユニクロは製造小売業だから粗利益率が高いのは当然だけれど・・・。もっとも、アメリカの靴ビジネスは粗利益率が高く43%もあるらしい)。

 「急成長!顧客サービスNo.1!2009年には働きたい会社フォーチュン100で23位!」ともてはやされているザッポスだが、2008年の後半にはキャッシュフローが悪化して、従業員の8%をリストラしている。(キャッシュフローの問題は人件費だけの問題ではない。他の靴通販に比べて、ザッポスは販売ブランド数やアイテム数の種類が多い。そして、迅速に配送できるために、在庫を多く抱えている。その在庫の買取りにお金がいるので、在庫を担保に、銀行から1億ドルの融資を受けていた。が、経済危機発生で、在庫価値が下がってきた)。銀行が融資を引き上げたら倒産するかも・・というところまでいっていたのだ。

 こういった財務問題があって、ビジネスを続けていくためにアマゾンに買ってもらうしかなかった。

 投資していたベンチャーキャピタル企業や銀行は、トニー・シェイCEOに「従業員や顧客をハッピーにすることに執心するのは、あんたの『社会的実験』だ」と言ったらしい(2010年に、シェイCEOは「ハピネスを届ける・・・」という本まで出版している)。8%の従業員をリストラしている企業が、企業文化もへったくれもないだろう。まずは、利益と現金を確保しろ・・・と言ったらしいけど、そりゃ、当然だよね。

 ここで、突然、1980年代にバック・ツー・ザ・フューチャーします。

 80年代に、多くの産業において市場の成長が鈍化するなか、新しい客を獲得することは、競合他社の顧客をうばうことであり、それだけ広告宣伝・販促費用がかかる(いまのケータイ市場と同じ)。よって、新規客獲得経費が高くなるなか、一度つかまえた客をなるべく長い間維持し、購買頻度や購買金額を高くしてもらうために、データベース・マーケティングという考え方が登場した。 顧客一人一人のデータを保存蓄積し、それに基づいてパーソナルなサービス(コミュニケーション)を提供することで、ロイヤルティを向上し、顧客が顧客である間に企業にもたらしてくれる利益、いわゆる「顧客の生涯価値」を向上するマーケティング手法だと紹介された。当時は、IT技術の発展により、パーソナルなサービスを大量生産することができるとさえ言われたものだ。

 90年代になって、ネットが登場するとともに121(ワン・ツー・ワン)マーケティングといわれたり、あるいは(ネーミングを変えたほうが、関連システムやソフトを売りやすいというIT業界の策略で)CRMという新しい名前で呼ばれるようになったりした。が、顧客の生涯価値を向上するという目的は、80年代のデータベース・マーケティングの考え方とほとんど変わらない。

 あれから30年たったいま、苦情質問をしてきた客のデータをチェックせずに対応しようという企業は、あいも変わらず存在する。そうかと思えば、ザッポスのように、ネット企業にもかかわらず、サイトのほとんどのページに電話番号を表示し、人間の介在を強調する。よって、質の高い顧客サービスを提供しようとすれば、人間をふんだんに使うしかないのだと主張している企業もいる。

 この二つの例は次元が違う。某デパートは、30年間言われ続けてきた「データに基づくマーケティング」や「パーソナルな顧客サービス」を無視しつづけてきた企業がいまだ存在することのひとつの例だ。そして、ザッポスは、これだけテクノロジーが発展しても、「質の高いサービスを大量生産化すること」は実現できていないことを明らかにしてくれる例だ。

 その一方で、(私を含めて)消費者は、80年代以降のサービスレベルの向上に慣れ、売り手企業への要求はますます上がるばかりである。

 なんだかねえ~、脱力。

 とどのつまり、売り手企業は、過去に学んだことを次の世代に伝えていくことができないのでしょうか? 同じようなことを繰り返していくのでしょうか?

 でも、まあ、結局は、こういった歴史的事実にめげない経営者が勝ち残っていくんですよね!

 たとえば、ザッポスのシェイCEO。彼は、「ハピネス」なんて言葉をやたら使うからといってオバカではまったくありません。物理的な商品を仕入れ販売している限りは、いまの過剰な顧客サービスを提供して利益率を上げるなんてことができないことはわかっています(親会社のアマゾンと物流センターを共有したり、アマゾンのシックスシグマ手法で効率をはかったとしても、商品単価から考えれば、純利益率は上がっても3%くらいでしょう)。シェイCEOの野心は、ザッポスブランドをプラットフォームにして、本当のサービス業に進出することのようです。ザッポスホテルとかザッポス航空・・・そういえば、以前、ヴァージンレコードから始まって、ヴァージン航空を創立した例もありました。

 小売業はサービス業に入れられますが、粗利益率や利益額が限られた物理的な商品を販売している限り、提供できるサービスも限られます。損益計算書を見ればわかることですが、いまのような過剰な顧客サービスを提供したければ、それに見合った対価を払ってもらえる本当の意味でのサービス業を始めるのが一番です。ザッポスホテルなんて、すぐにでも始められそうです。もっとも、私は、思うのです。「世界中にハピネスを届けたい」と、照れることもなく口にすることができるというシェイさんは、宗教ビジネスを始めるのが一番いい。写真で見るとわかるように、すでに、名僧の雰囲気を漂わせているし・・・。 宗教ビジネスは究極のサービス業です。

 で、靴のザッポスはどうなるのか? アマゾンが吸収して、過剰なサービスを高品質なサービスのレベルに変える(返品は1年ではなくて30日以内、それと電話番号は苦情質問受付ページにだけ掲載。ただし、返品のさいの配送費無料は続ける)。他タイプの商品よりも高いという粗利益率を考えれば、4~5%の純利益率を出すことくらいはできるのではないでしょうか?

参考文献:1.Tony Hsieh, Zappos’s CEO on Going to Extremes for Customers, Harvard Business Review, July-August for Customers, Harvard Business Review, July-August 20 Customers, Harvard Business Review, July-August 2010, 2.Tony Hsieh, Why I sold Zappos, Inc. June 1. 2010 , 3.Andria Cheng, Zappos, under Amazon, keeps its independent streak, MarketWatch June 11, 2010,

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