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小売とメーカーのバトル・ロワイアル・シリーズ

小売とメーカーのバトル・ロワイアル・シリーズ

第6回 メーカーの逆襲

2009 年 3 月 2 日


Cc: contrapositively
WAL-MARTを止めるのは誰だ!?

メーカーの逆襲!!っていうほどカッコよいのものではないんだな、これが・・・。

 実際のところ、「メーカーのディフェンス作戦」ってタイトルのほうが無難かも。もうちょっとばかし気分が高揚するような表現にしたければ、メーカーの戦略的防衛って感じですかね。なぜなら・・・数字をみて、改めて驚くのですが、日用消費財や食飲料品を製造しているメーカーは、世界的に知名度が高い企業でも、グローバル小売業の売上からみるとググッと見劣りするのです。

(メーカーは広告宣伝費の売上高比率が高い。しかも、マス媒体を利用することが多い。だから、たとえ売上が低くても、小売の広告より目立つ。そのため、いわゆる「再認ヒューリスティク(不可解な消費者行動シリーズ第2回参照)」というやつで、TVで広告しているのだから大きな会社に違いない・・と思い込んでしまうのだ)。

 実際には、食品メーカーNo.1のネスレの売上ですら790億ドル。これは、 No.1小売業ウォルマートの3510億ドルのわずか四分の一。ウォルマートは小売業だけでなく世界中の全企業のトップに立つわけだから当然だとしても、小売業No.2のカルフールやNo.3のテスコの売上に、あのP&Gですら及ばないのです。

         2007年度売上(Fortune Global 500)

  1. ネスレ     $790億      米ウォルマート  $3,510億
  2. P&G      $680億      仏カルフール    $990億
  3. ユニリーバ   $510億      英テスコ       $790億

 日本のメーカーを国内小売業と比べてみると、P&Gとよく比較される花王がセブン&アイの四分の一、資生堂やキューピーの売上にいたっては1兆円は「遥か彼方の山の向こう」です(どちらにしても、海外進出に出遅れた日本は、花王にしてもセブン&アイにしても、残念ながら、欧米のライバル企業の売上レベルは「遥か彼方の海の向こう」です)。  

          2007年度(2006年度を含む)売上

  1. 花王                  ¥1兆3180億 ($104億)
  2. キリンホールディングス       ¥1兆6650億
  3. 味の素                 ¥1兆158億
  4. セブン&アイホールディングス   ¥5兆3380億 ($452億)
  5. イオン                  ¥4兆824億

  スモウ、柔道、K-1・・・格闘技では、いくら技に優れていても、体格の差があると勝つのはむつかしい。細身なイケメンが体重が3倍もありそうな体育会系醜男に勝つのは映画やゲームのなかだけなのだ。実際のケンカになったら、大きいほうが勝つにきまっている。だから、メーカーがまずしたことは、ブランドの「選択と集中」だ。つまり、体は小さくても、パワーのある武器を持てば巨人にだって立ち向かうことができるかも・・・ということだ。

 2000年ユニリーバは「成長への道」五ヵ年戦略を発表し、1600あったブランドをグローバル市場でもNo.1とNo.2を占める400個に削減するとした。2006年現在、ユニリーバで10億ドル以上の売上を上げるメガブランドは1999年の4ブランドから12ブランドに増えている。ユニリーバが五ヵ年戦略を発表したころ・・・P&Gも300ブランドのうちトップ10が売上の 50%を占めることから、年間10億ドルを上げる14ブランドをメガブランドとして投資を集中する方針を打ち出した。

 だが、いくら武器のパワーアップをはかっても、体格の差は埋められなかった。巨人の小売店と互角に戦うには、どのメーカーも小さすぎるのだ。「そーか、やっぱり、基本はガタイの大きさなんだ!」と誰もが驚きながらもそう納得したのが、2007年にP&Gが剃刀や電池で最大手のジレットを買収したとき。・・・というか、ジレットがある意味自分からすすんで570億ドルという金額でP&Gに買収されたのだ。買収されるということは、通常、ビジネスに何らかの問題があることを意味する。だが、ジレットは、剃刀や電池の分野において圧倒的優位を占め、4年前に新しい経営者を迎えてから、売上も上昇して非常な成功をおさめていた。2007年度には売上が100億ドルを超えるだけでなく純利益率 20%を超えるという記録的業績を計上するだろうと予測されていたのだ(当時のP&Gの売上は514億ドル)。

 ベストセラー「エクセレント・カンパニー」を書いたトム・ピータースは自分のブログで、「P&Gジレットを570億ドルで買収だってさ。ボクは一つだけ質問したいね。いったい、何の意味があるのかね? どちらも十分に大きいのだから、規模の経済もない? シナジー効果? 電池とトイレットペーパーに相乗効果なんてあるのかい?」。

 意味なんてなくてよいのだ。大きくなることだけが目的だったのだ。ジレットのCEOは買収発表の席において、「私は『規模』の力を信じる。取り残されるよりは再編を主導したい」と語っている。

 ジレットは、中国やインドといった国が競争相手となる、つまり、ヨーロッパとかアメリカ市場での成功が大きな意味をもたなくなるグローバル市場においては、いくら優良企業でも売上が100億ドルくらいでは、有機的成長を将来ともに達成するための十分な規模ではないと考えたのだ。もっとも、これは表向きの言い訳だ・・・と考えるむきもある。報復されないように口には出さないが、P&Gとジレットが合体することで、ウォルマートと価格交渉するときに、互いを戦わせる作戦にのることなく、共同戦線がはれるからだとウワサされている。つまりウォルマートに奪われた価格支配力を取り戻すための買収合併だと考える業界人もいるということだ。

 ジレットはジレット剃刀やデュラセル電池だけでなく、ブラウンやオーラルBといった著名ブランドをもっていた。こういったブランドとP&Gの日用品とは小売店の近接した棚で売られるのだ。合併することによって、世界市場において 10億ドルを稼ぐ価値のある合計21のブランドを所有することになる。結果、大魔神ウォルマートとの価格交渉に有利に働くだろう・・・と期待したわけだ。

 小さいもの同士が合体してヘンシーンすれば、大魔神とも互角に戦える! 

 大きくなければ勝てないのだ。250件ある工場のうち83件を閉鎖して生産性をあげ、スリムな筋肉質になっても、やせてしまったら勝てないのだ・・・と批評されているのがユニリーバ。10億ドル売るメガブランドに集中するといっても、全体のブランド数が減れば総合売上は減る。選択するブランドが、削除したブランドの売上損失をカバーして余りあるものでなければいけない。ユニリーバは各ブランドのその分野における競争優位性やグローバル市場における消費者の国ごとの好みの違いをじっくり考慮することなく削除してしまった。それでも、残されたブランドからより多くの売上を上げられていれば結果オーライだが、それができていない・・・と批判されている。

 その点、同じヨーロッパの会社でもネスレは異なる戦略をとった。ネスレは2007年現在で8000ものブランドを抱えている。もちろん、売上の70%を占める6つのグローバル・ブランド(ネスレ、ネスカフェ、マギー、ピュリナペットフード、ネスティなど)を強調はしている。が、コア・コンピタンシーに集中するという考え方を、1997年にCEOになったピーター・ブラベック氏は必ずしも正しいこととは思っていないらしい。多様なブランドを抱えることは複雑性を増すが、それを効率よく経営するのがマネジメントだろう・・・ってけっこう自信たっぷりだ。もっとも、その戦略の結果として、売上は大きいが、利益率はライバル企業に比べて低いと投資家たちには批判されている。

 ネスレのグローバル戦略を理解するのには、10億ドルのパワーブランドであるキットカットを例にとってみるとよい。キットカットの形状やフォーミュラは市場によって異なる。ロシアのキットカットはブルガリアのものよりも小さいし、ドイツのものよりもチョコレートのきめが粗く甘くない。世界で一番多種多様な味が提供されているのは日本だ。でも、オレンジ味、ミント味は英国でも売っているし、ポーランドではカプチーノ味もある。結果、たとえば、英国にある工場では、週によって20種類のキットカットを製造することがある。「食品にはグローバル消費者なんていない。各国の好みというものがある」・・とCEOは言っている。各国市場の多様性を考慮すれば、数多くのローカル・ブランドを抱えるのは仕方がない・・ということだろう。

 つまり、食飲料品メーカーは中途半端なサイズが一番いけないということか? 小さくても、買収されないように防衛策をとる。ないしは、上場しない選択をして、ローカル市場でNo.1の座を維持するという道を選ぶこともできる。ローカルといっても、日本のメーカーの場合、世界で一番成長率の高いアジア市場を「ローカル」とみなして行動できる地理的優位性がある。ロシアも近いし。「クールジャパン」のイメージが浸透している、いまが、頑張りどきです。

 ところで、買収とか合併とかいった企業同士の合体ではなく、ブランド同士が合体して、パワーアップしようという試みもある。これまで、よく見られたのは、感性とかライフスタイルの似ているブランド同士が同じ広告にいっしょに登場したりするもの。あるいは、マクドナルドがオレオクッキーやキットカットが入ったデザートを提供するといったもの。だが、最近登場するようになったのは、片方が売れれば、片方も売れ続けるのが確実な合体方法。場合によって、小売店との交渉にも効果を発揮するかもしれない協力手法だ。

 たとえば、日本でも売られているフィリップスのシェーバー「モイスチャライジング・シェービングシステム」。ニベアのローションをカートリッジに注入することにより、髭をそると同時にローションが出てくる。肌をいたわりながら剃れるというわけだ。フィリップスは、「革新的アイロン経験を提供する」アイロンを2004年にオランダで発売している。フィリップスのアイロンにユニリーバのシワトリ用製品を注入して使う。シワを伸ばす液が布地にスプレイされるところにアイロンをかけるのだから完璧にシワのばしができる。これこそ、本当の合体マシーンだ。

 こういった2つ以上のブランドが合体して生まれた新製品に、Branded Brandsと名づけた会社www.trendwatching.comがある。よく使われる「コーブランディング(共同ブランディング」という言葉より好きですね。ブランドのうえにブランドがのっかっている感じ。親ガメの上に子ガメを乗せて~・・・って、ちょっと古いけど、そんな感じ。ブランドのW攻撃!!ってとこですね。

参考文献:1.Peter Gumbel, Nestle’s Quick, Time 11/14/07, 2. Nikhil Bahadur, et al., How to Slim Down a Brand Portfolio, Strategy+Business 11/15/06, 3.James Cramer, Mergers on the Verge, New York, 2/07/05

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