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ネットとメディア

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フェイスブックはメディアなのか?(無料より高いものはない)

2011 年 1 月 12 日

フェイスブックは果たしてメディアなのか?

 フェイスブックはメディアである・・・・と言うのは、グーグルが検索サービス会社であると言うのと同じくらい、正しいようで正しくない。

 フェイスブックは、2010年4月に「オープングラフ」を発表しました。そのオープングラフ構想に対しては、

1. 地球規模の「行動ターゲティング広告」が実現するかもしれないことへの驚異と脅威、この2つの感情がいりまじった意見があいついでいます。
2. 当然のことながら、プライバシー侵害についての議論も続いています。

 オープングラフとは、フェイスブックの創業者でCEOのマーク・ザッカーバーグが2007年に造って発表し流行語にもなった「ソーシャル・グラフ」がオープンになったもの。・・・・ということで、まず、ソーシャル・グラフとは何かということから始めます。

 ソーシャルグラフは、オンライン上での個人の関係(リレーションシップ)を(ノードとエッジと呼ばれる線で)描いたグラフで、実社会のソーシャル・ネットワークのヴァーチャル版です。フェイスブックが提供するSNS(Social Networking Service)を利用するユーザー間のソーシャルネットワークは、ソーシャルグラフです。

★下の図は、6人の関係をノード(サークル)とエッジ(線)で表現したソーシャルグラフです(Wikipediaから引用)
ソーシャルグラフ

 オープングラフは、このソーシャルグラフをオープンにして、フェイスブック以外のサイトを含め、究極的には、ウェブ上のすべてに広げようというものです。つまり、「世界中の人間が、デジタルの世界においては、(フェイスブックが提供する)ひとつのプラットフォームでつながるようにする!」というものなのです。

 そのために、フェイスブックは新しいソフトウェア(ソーシャルプラグイン Plugin)を開発しました。フェースブックにつながりたいサイトは、この無料のソフトを使って、「いいね!」ボタン(Like Button)やログインボタンを自分たちのサイトに貼りつければ、それだけで、簡単に、フェイスブックとつながることができます。

 「つながる」ということは、たとえば・・・

1. ユーザーにとっては・・・・フェイスブックのユーザーが「つながっているサイト」を訪問すれば、小さなウィンドウがポップアップして、友人の顔写真入りで、友人の誰がどのページにアクセスして、どの記事とか商品にどうコメントしているかの情報が表示される。また、ユーザーは自分のプロフィールデータを携帯して他のサイトを訪問しているようなものなので、商品を買うときに、住所・氏名などを新たに書き込む必要もない。
2. 他のサイトにとっては・・・・初めての訪問者でも、フェイスブックから提供された情報をもとにパーソナライズされたサービスを提供することができる。よって売上が向上する。
3. フェイスブックにとっては・・・・ユーザーが他のサイトで見たもの、買ったもの、コメントしたこと等々、すべての行動データを獲得することができる。こういった情報武装によって、ユーザーに最適化された広告を出すことができる。よってスポンサーに高い広告料金を請求することができ広告収入が向上する

 「ユーザーは、オープングラフによって、ウェブ上のどこにいっても、パーソナライズされたオンライン経験を楽しむことができる」とか、「ウェブ上をサーフィンしていて、面白そうな店があるので立ち寄ってみた。そしたら、そこに友人数人が来ていて、どの商品を買うとよいとか教えてくれるようなものだ」とか、いろんなコメントがある。

 広告に話をしぼると、フェイスブックのサイト内での広告は、他の大手サイトと比べて、CTR(クリック率)が低いことがわかっています。サイトを訪問するユーザーのクリック率は、平均して、0.04%くらいしかないといわれる。かたや、「犬、ドライフード」というキーワードで検索すれば「ペットフード」の広告が出てくるグーグルの場合は、検索したひとたちの8%が、最初に出てくる広告をクリックしているといわれる(そのぶん、グーグルの広告料金は高い)。

 フェイスブックとしては、ライバルに対抗して広告収入をふやすためには、サイトにアクセスしてきたユーザーに、1)他のサイトで、犬を購入したという情報をもとに、ドッグフードの広告を出す、2)そこに「いいね!ボタン」がついていて、クリックすると友人の一人が、「このお店の商品は他よりダントツ安い」とコメントしていた・・・・というようなパーソナライズされた広告を出そうというわけだ。

 当然のことながら、プライバシーへの懸念がある。オープングラフは個人情報の流出だと猛烈な反論もある。だが、フェイスブックは、1) 知人情報はユーザーだけに表示される、2)自分のプロフィールに公開したくない情報は書かなければいいと反論する。そして、他のサイトでの行動情報が自動的につつぬけになってしまうじゃないかという抗議に対しては、3)いやならオプトアウトすればいい・・・と答える。

 ここで問題なのは、オプトアウトをする・・・・ということだ。

 フェイスブックのユーザーは、フェイスブックが他サイトと情報を共有することに対して、ユーザーになった時点ですでに了承していることになっている。つまり、デフォルトで(初期設定でそうなっているので自動的に)オプトインしているということなのだ。

 ユーザーとして登録するときに登録ボタンをクリックすると、利用規約およびプライバシーポリシーに同意することになる。これは、ほとんどどこのネット企業でも同様なやり方をしている。そして、細かい字で書かれた利用規約とかプライバシーポリシーを読むひとなんてほとんどいないだろう。

 調査によると、フェイスブックのプライバシーポリシー(英語)の長さは、 5830字(2004年には1004字だった。そして、ツイッターは現在でも1203字)。ニューヨークタイムズの記事によると、フェイスブックでは個人情報を第三者と共有しないようにするためには50もの設定をチェックしなくてはいけない。よって、オプトアウトするために必要な手続きは非常に煩雑なものになるそうだ。

 私自身は、マーケッターの一員として、他のサイトに自分のある程度の情報が流れることに目くじらは立てないつもりだ。だが、デフォルト(default)でオプトインになっているというネット業界のやり方には異議というか、原理的(?)コメントをいいたくなる。

 日経新聞に林紘一郎氏(情報セキュリティ大学院大学学長)が、グーグルの書籍の電子化に関して次のように書いてる。「・・・現行の著作権制度に従えば、書籍は事前に権利者の許諾を得ないと複製できないこと(つまりオプトイン)のが常識だが、(グーグルが)採った態度は許諾なしに膨大な複製を行ったあとで権利者団と和解するという、世間からみれば破天荒なものであった・・・」。つまり、「グーグルの行動様式は、オプトアウト(関係者の同意を得ないで処理を行い、異論がある場合には、退出できるオプションを用意しておけば許される)をデフォルト(初期設定)と考えるものである」。

 フェイスブックCEOのザッカーバーグは「ウェブの世界では、デフォルトがソーシャルである」といっている。この発想からいけば、初期設定が個人情報をオープンにすることになっていることは当然だ。

 グーグルは、「世界中の情報を誰もが簡単にアクセスできるようにする」ことが創業時からの目標だ。そして、フェイスブックは、「世界中の人間をつなげる」ことが今の目標のようだ。 

 すでに5億人集まっているから、そんな目標をたてる気にもなるんだろう。昔、人類皆兄弟なんてスローガンもあったし、DNA的には祖先は同じで、みんなつながっている。だが、誰もがつながりたいってわけでもないだろう。それに、皆兄弟だといっても何でも話す、つまり情報をオープンにしたいわけでもないだろう。(日本のオタクはアンチソーシャルがデフォルトのはずだし・・・・)。

 私が、たとえば、長渕剛のコンサートチケットをぴあで買ったとして、一ヵ月後にアマゾンのサイトを訪問したら、長渕のCDがレコメンドされたとしたら・・・・? あるいは、フェイスブックを訪問して、サイト内のアマゾンの広告をクリックしたら、長渕の歌声が流れてくる。その上、そばにある「いいね!ボタン」をクリックしたら、その曲が好きな友人の写真が飛び出てきて、「長渕の曲で、最近、はまってるのは~」なんて好きな曲を推薦してくれる・・・というものだったら。そしたら、買うか? うーん、うざいなと思いながらも、買ってしまうかも。

 あっと、ダメダメ。原理的に反対意見を書くのだった。

 一歩も五歩もゆずって、パーソナライズドされたオンライン経験には「意味ある」ものもあるとしよう。

 だが、そのために、わたしたちは何を犠牲にしているのか? 

 ネットの登場によって、多くの情報が無料になった。「フリー/無料からお金を生み出す新戦略」という本も出版されている。「デジタルなものは無料になる、だが、企業は無料でサービスを提供しても、それでもお金儲けはできる」といったようなテーマで、ベストセラーにもなったらしい。だが、無料でビジネスは成り立たない。「人類皆友人か夫婦になれる(アメリカではSNSサービスで結婚するカップルが増えているらしい)」サービスを無料で提供している会社フェイスブックは、広告で収入を得なくてはいけない。

 そして、行動ターゲティング広告にすれば、広告収入は向上する。・・・というかライバルのグーグルにクリック率で追いつくことができる。そのためには、パーソナライズドされた情報が必要だ。

 グーグルやフェイスブックという企業が無料でサービスを提供して、その過程において、社会と摩擦を起こすことがあったとして、それは、結局は、サービスにお金を払わなくなった私たちが悪いのである。

 私たちは、無料で価値ある情報を得る結果として、自分自身の情報を提供しなくてはいけなくなっているのだ。

 欲しい情報と自分の個人情報と物々交換をしているようなものだ。

 無料(タダ)より高いものはない。昔からいうコトワザどおりなのだ。 

 ・・・・タイトル「フェイスブックはメディアなのか?」のテーマに戻します。

 フェイスブックは、いまは広告で収入を得ているから広告メディアかもしれません。が、フェイスブック・プラットフォームは、5億の人間のデータから構築されたプラットフォームです。現在は、北米とヨーロッパで全ユーザーの60%を占めていますが、シェア17.5%のアジアでのユーザーの増加率は15.3%で欧米の約2倍。また、アフリカのシェアは現在1.6%ですが、増加率は 21%です。人口の多い国のユーザーの増加率か高いことを考えると、「すぐに10億に届く」というフェイスブックCEOのコメントは現実味をおびています。

 10億の人間のデータから構築されたプラットフォームを持つ会社がたんなる「広告メディア」で終わるはずがありません。きっと、新しいビジネスを考えていることでしょう。

 世界18カ国5万人のネットユーザーを調査した結果(HBR8月号)によると、日本は世界の異端児です。ソーシャルメディアを使ってネットワークを積極的に広げようとしている世界のなかで、日本はソーシャルメディアを限られた友人や知人とつながるために利用している傾向が高いそうです。

 そのせいか、フェイスブックの日本におけるユーザー数は約200万人といわれています。かたや、フェイスブックとは違いクローズドな方針をとってきているミクシィの登録者数は11月時点で2190万人です。

 しかし、こういった傾向がこれからも続くわけではないでしょう。日本と同じく国内SNSが強いといわれた韓国で、いまフェイスブックは73%という世界最速の勢いで伸びています。(10年7月現在で直近3ヶ月の成長率)。

 最後に話しのネタをひとつ。 フェイスブックは5億人というユーザー数からひとつの国家にたとえられます。たしかに、国民総背番号制も採用できず国民のデータの一元化のできていない日本国と比べれば、国家としてのインフラはよほど整備されているかもしれません。ネットの世界の憲法ともいうべき利用規約とプライバシー・ポリシーに関していえば、フェイスブックのものは5,830字からなると書きました。これは、4,543字からなるアメリカの憲法より長い。この点からも、フェイスブックはすでに国家の体をなしている・・・・って、これはジョークでしょうか?!

参考文献: 1. Gulbert Gates, Facebook Privacy: A Bewildering Tangle of Options, 5/12/10, The New York Times, 2.Facebook: One Social Graph to Rule Them All?, CBSNews, 4/2 Graph to Rule Them All?, CBSNews, 4/21/ to Rule Them All?, CBSNews, 4/21/10, 3. Zuckerberg: “We Are Building A Web Where The Default Is Social”, The Washington Post, 4/21/10, 4. Facebook’s outrageous privacy policy: By the numbers,5/17/10, The Week, 5.Is Facebook Trading Privacy for Profit?, RedOrbit News, 5/3/10, 6. Brad Stone, How Facebook sells your friends, Bloomberg Businessweek, 9/24/10, 7. 林紘一郎、経済教室「グーグル・ヤフー提携を考える」、日本経済新聞社11/17/10、8.Mapping the Social Internet, Harvard Business Review July-August 2010、9.「こうなる2011年」日経ネットマーケティング2011.1

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