ビジネスニュース・セミナー情報・研修プログラム・コラム・講師プロフィール・インタビュー等、仕事をもっと楽しむための情報を発信

マーケティング NOW 2013

マーケティング NOW 2013

NOW8 未来のお金は統一通貨じゃなくて、ビットコインとその仲間たち

2013 年 12 月 13 日

  お金(貨幣)は人類が生んだ最大の抽象概念だという。貝殻や金(ゴールド)や1万円と印刷した紙切れを、モノやサービスとの交換媒体として利用するという発想は、高度な認知機能が発達した人間だからこそできる考え方だ。

  だが、金(ゴールド)とか紙幣はまだましだ。形がある。見ることができるし触ることもできる。

  ビットコイン(Bitcoin)は無形だ。見ることも触ることもできない。仮想貨幣(Virtual Currency)ともデジタル貨幣(Digital Currency)ともいわれる。オンライン上で暗号技術を利用して匿名性を維持しながら取引きできる。また、音楽ファイルを簡単にコピーするように、同じ貨幣が何回も使われるというネット特有の問題をも、暗号技術で解決している。だから暗号貨幣(Cryptocurrency)とも呼ばれる。

  2009年、ビットコインの価値は15セント以下だった。2010年くらいから、取引きが活性化するとともに価値が上がり、2011年には1ドルくらいになった。アップダウンをしながら、2013年11月には1ビットコイン=750ドルになった日もある。

  2008年に、Satoshi Nakamotoという謎の人物がネット上で9ページの論文を発表し、銀行とかクレジットカード会社といった金融機関を通さずに、一人からもう一人に(ネット上ではコンピュータを操作している人間を識別するわけではないので、対等の関係の端末から端末へという意味でPeer to Peerといわれる)・・・つまり、P2Pで直接オンライン支払いができるビットコインと呼ばれる電子貨幣の提案をした。

  この論文では、政府や中央銀行の介入を受けない貨幣であることが強調され、2008年末の金融危機における政府や銀行の無策ぶりに嫌気がさしていた特定グループを魅了した。

  だが、ビットコインが注目を集め価値が上がるようになった最大の要因は、ヨーロッパにおける経済危機だ。とくに、政府が発行している貨幣への信頼がゆらいでいる地域では、ビットコインの所有率は高くなっている。たとえば、、キプロスのような国では、ユーロ圏から支援を受けるために、政府が銀行預金課税として富裕層の預金の25%を徴収しようと考えた。それを知った市民は、銀行から預金をおろし、マットレスの下に隠したり、ゴールドを買ったり、ビットコインを買った。

  インフレーションが年率25%のアルゼンチンでは、一般市民が伝統的通貨やゴールド、あるいはクレジットカードで海外に支払いをすることは規制されている。政府や中央銀行なんか信頼できないと市民が思っている国では、ビットコインを持っている人の割合は高くなる。

  中国検索大手の百度(バイドゥ)は一部サービスの決済手段としてビットコインを受け入れることを発表している。人民元の換金や資本移動が厳しく管理されている中国だからこそ、政府支配をうけない通貨への関心が高いのかもしれない。

  2013年には、世界中で、1100万個、つまりおよそ10億ドル以上のビットコインが流通している((コインという名称からつい1個、2個と数えてしまうが、無形のものを個数で数えてよいものか、ちょっと迷う。今後は、単位とする)。この金額は、リビアやブータン、その他18か国の小国が所有する貨幣金額より大きい。カナダのバンクーバーには世界最初のビットコイン用ATMがある。クレジットカード会社やPayPalに数%の手数料を払うことを嫌い、手数料がゼロに近いビットコインを取引に使う業者はオンライン上で1万件あるし、リアル店舗でも1000件あるという(もっとも大手小売業は入っていない)。政府や企業のマル秘情報を公開するウィキリークスもビットコインでの寄付金を受け入れている。

ビットコインは、手数料ゼロで、簡単、迅速、かつ匿名で送金できるということで、最初に人気を得た。だが、いまでは、保存(富を低コストで維持保存する)や投資にも利用されるようになっている。

  しかし、いくらデジタルマネーや電子マネーに慣れているといっても、たとえば100万円をビットコインに交換する勇気は、あなたにはあるだろか?

  現金は持たない、デジタルマネーに慣れている・・・といっても、それは、ただたんに、決済手段としてケータイを使うというだけのことが多い。他国に先駆けて「おサイフケータイ」を始めた日本では、2012年3月にはケータイをもっている6人のうち1人はケータイでショッピングや飲食店の支払いをしている。

  アフリカのケニアではケータイで預金、送金、支払いができる。1500万人がこのシステムを利用して、ケニヤのGDPの三分の一のお金がこのシステムで流通している。モバイル通信会社サファリコムが2007年に始めたM-Pesaサービスの利用者がここまで増えたのは、ケニアの多くの国民が、① 銀行口座やクレジットカードを持っておらず、② 他の送金手段は料金が高い、③ 内戦の多い地域では銀行に預けるよりも安全・・・といった理由がある。似たような状況にある国、例えば、タンザニア、アフガニスタンやインドでも、同じようなシステムの導入が進んでいる。

  米国、英国、ドイツ、フランスといった国も遅ればせながら、ケータイによる決済サービスを導入し始めた。たとえば、グーグルも2011年にGoogle Walletを開始した。

  決済(支払)にケータイを使う例は、キャッシュレス社会が進むことをしめしてはいる。が、「ケータイさえあれば現金はいらない」というセリフは実際には正しくない、ケータイが貨幣になったわけではない。ケータイは支払を満たすだけの現金がどこかに存在するという証明をしてくれているだけだ。

  キャッシュレス社会を促進したい国は多い。

  現金は物理的に形があるがゆえに経費がかかる。米国での研究によると、新しい紙幣の印刷、武装したトラックなどによる移動、ATMの補充・・・など、現金流通システムを維持するためにGDPの1%くらいの経費がかかるという。巷に出回る現金を少なくしようという動きもあり、オランダでは、現金が使えるレジは一日のうち数時間しかあかないというスーパーがある。スウェーデンでは、政府と労働組合が協力して現金がなるべく多く流通しないように工夫している。店舗や銀行から現金を少なくすれば、店員が強盗に襲われるリスクも少なくなるし、警察の負担も少なくなるというわけだ。

  このように、キャッシュレスが進む社会において、伝統的通貨への経済的または心理的依存は弱くなっているといえる。だから、疑似マネーのようなものが登場する。

  たとえば、ポイント。

  ポイント天国といわれる日本でのポイントの年間発行額は1兆5000億円を超える。国民一人当たり1万円以上になる。ポイントが疑似マネーといわれのは、いくつかのポイント交換を経なくてはいけないかもしれないが、最終的に、現金に還元できるようになったからだ。ポイント交換サイト「ポイント探検倶楽部」を利用する人の年間獲得ポイントは平均で8万円分を超えるという。

  オンラインゲーム上で使われる仮想通貨やアイテムも現金に換えることができる。そういった行為に批判があるとしても、換金できる仮想通貨やアイテムも疑似マネーと呼ぶことができる。

   ビットコインBitcoinは、こういった疑似マネーとは違う。最初からリアルマネーとしてつくられている。

  ビットコインは、金(ゴールド)に非常に似ている。・・・というか、金を念頭につくられた貨幣だ。金を採掘するには時間も労力も必要だ。しかも、金の埋蔵量には限りがあり、浅いところにある金を採掘するのは簡単でも、深い所にいけばいくほど採掘もむずかしく、また経費もかかるようになる。ビットコインは、金と同じように、全採掘量(全鋳造量)は決められているし、鋳造すればするほど1単位のコインをつくるのがむづかしくなるように、あらかじめ定められている。

ビットコインの鋳造量は2100万単位と定められている。2140年までにはすべてを鋳造しおわると予測されている。
ビットコインを鋳造するということは、ソフトウェアに組み込まれている数学パズルを解くことで、成功すれば報酬として、最初のころは50単位獲得できた。が、報酬額は鋳造量が一定レベルに達するごとに半減するようにプログラムされている。すでに、2012年には25単位に半減している。2017年には12.5単位になるはず。
ビットコインが鋳造されればされるほど、パズルを解くことがむつかしくなっていくようにプログラムされている。

  こういった仕組みによって、ビットコインの流通量は、最大2100万単位になるまで、少しずつ減少するペースで増量する。他の伝統的通貨のように政府や中央銀行が通貨を増やす政策をとることでインフレーションを引き起こすリスクはビットコインの場合ない。ビットコイン通貨量の成長が減少し、価値が上昇するとともに、ゆっくりとではあるが徐々にデフレーション傾向になっていくようにつくられている。

  2008年に、ビットコインの生産や交換の仕組みを説明した文書を発表したSatoshi Nakamotoは、2009年にはその仕組みをつかってビットコインを交換するオープンソース・ソフトウェアを発表した。このソフトウェアは、現在、数人の中核チームによって運営されている。

  オープンソースソフトウェアをダウンロードすると、ビットコイン利用者が使うコンピュータ数万件からなる分散されたネットワークにつながり、他人とビットコインを交換するのに必要な二つのカギも生成される。カギの一つは私的なカギで自分のコンピュータ内に隠される。もう一つは公的カギでビットコインアドレスとして使われる。どんなに威力あるコンピュータを使っても、公的カギから私的カギを解くことはできない。よって、誰も自分のふりをすることはできない

  ビットコインアドレスは数字とアルファベットがつらなる27~34字からなる。取引相手がこのアドレスを送ってきたら、そこあてに支払いをする。取引をすると、ソフトウェアは、相手の公式カギとあなたの私的カギ、そして支払われたビットコイン金額を数学的に組み合わせ、その結果を、ビットコインネットワークに伝達する。

  つまり、ビットコインの正体は、取引き証明書のようなものなのだ。そして、この証明書はネットワーク内に公開されたことになる。

  こういった証明書が公開されることにより、いま現在誰がどれだけビットコインを所有しているとか、これまでどういった取引があったかといった詳細なデータすべてがネットワーク内で共有されることになる。(誰が・・・と書いたが、むろん、個人を識別するもののではない)

  この方法では、同じビットコインを何度も使ったりするというような不正行為は不可能となる。

  ビットコインを採掘するには、数学的問題を解かなくてはいけないと書いた。もう少し詳しくいえば、ビットコインのハッシュ・アルゴリズムが適用されると特定のパターンを生み出すような一連のデータを見つけることが解答を得たことになる。マッチングができれば、採掘者(鋳造者)はビットコインを報酬として得ることができる。

 ビットコインのような仮想貨幣は、ビットコイン誕生以前にもそれ以後にも、いろいろつくられている。その中でも、ビットコインは最も完璧に近い貨幣だといわれる。

  その証拠というわけではないが、米国で、11月18日に、仮想通貨の将来性や危険性について議論する上院公聴会が初めて開催された。もしかして、ビットコインは違法といわれて規制されるのではないかと懸念されていた。が、ふたを開けてみると、その逆だった。合法性にある程度のお墨付きが与えられたのだ。

  匿名性が保たれるビットコインが、マネーロンダリングとかドラッグの売買といった犯罪に利用される危険性についても、政府代表者は、「仮想貨幣でもモニターして取り締まる自信がある」と証言。経済犯罪の専門家も、「今でも、マネーロンダリングには現金が最適な手段であることに変わりはない」と証言した。FRB(米連邦準備理事会)のバーナキン議長も、上院公聴会に送った書簡で、ビットコインの一定のリスクを認めながらも「今後のイノベーションによって、より速く、より安全でより効率的な支払システムがもたらされるとしたら将来的に有望かもしれない」との見解を示した。

  その日に、ビットコインは1ドル=750単位にまで高騰した。

  政府の後ろ盾のない貨幣を使うなんて、あくまで少数派に限られると思うかもしれない。だが、これまでの貨幣の歴史を見れば、人類は大胆なリスクをとる経験をしてきている。

  13世紀の中国を訪れていたイタリア商人のマルコポーロは、紙切れが金、銀、真珠と交換され、一般庶民も紙切れと日用品を交換しているのを見て目を丸くして驚いている。中国は8世紀に世界に先がけて紙幣を発行している。が、それが一般的に流通するには500年かかっている。

  お金は電子化されて数十年たっているだけだ。私たちが、まだ形ある現金、あるいは形あるカードを捨てきれないのは当然だろう。考えてみれば、紙幣はむろんのこと、金や銀、それ以前の貝殻だって、すべて、本源的価値などない。金(ゴールド)にしたって、私たち全員がそれに価値があると認めているから価値があるわけで、食糧危機におちいって食べものがなくなったら、金のノベ棒にはサツマイモ一個の価値もない。

  バーチャルマネーはむろん、ポイントのような疑似マネーだって、みんなが認めれば、ドルや円といった伝統的貨幣と同等だ。

  遠くない未来・・・・日本円、ドル、ユーロといった伝統的貨幣、ビットコインやそれに似たような新デジタル貨幣、あるいはツタヤポイントやゲームで使う疑似マネーなど、数百種類のマネーが自分のスマホの財布の中に入っている。どれだけ入っていようとも、どこで何に支払うかによって、スマホがどのマネーを使うのが一番お得かを一瞬のうちに計算して教えてくれる。その指示にしたがって、交換率が一番よくて、送金料や、手数料が一番低いマネーをつかう。

  つまり、将来は、何十、何百、何千といったリアルやバーチャルな貨幣を国籍に関係なく一般市民が日常的に使うようになる。欧州で一つの通貨ユーロを使うなんて、かつて、それが最善のように考えられた概念は、もはや存在しない。

  Google のビッグデータに基づく翻訳手法のような考え方が進化する結果として、モバイル端末やウェアラブル端末をつかって、異なる言語を話していると意識することもなく互いに会話や議論を進めることができるようになる。言語がとくにひとつの言語に集約される必要がなくなるように、通貨も一つにまとめる必要はなくなる。

  まあ、そこまで過激でないとしても、「貨幣間での競争は良いことだ」と考える経済学者はいる。ビットコインがたとえ小規模でも、政府や中央銀行の介入なしに、経済的に成功することができれば、それは伝統的貨幣に良い影響を与えることになるだろう・・・というわけだ。

  1999年に欧州統一通貨ユーロが導入された。二度と大きな戦争を起こさないという悲願とともに、戦後世界支配を続ける米国とドルに対抗できる経済圏をつくろうという野心のもとに統一通貨はつくられた。だが、その結果が、いまの混乱だ。人間の(自分中心、自国中心の)利己的本能は変わらない。

  だったら、自分自身でお金の管理をするのがよい。

  それぞれの貨幣の供給量の制限の有無とか為替(交換率)とか、そういったことに関して政府や中央銀行に頼ることは、もうやめよう・・・というわけだ。ユーロのような統一通貨も必要ない。アジア経済圏の統一通貨も必要ない。

  政府の介入がないかわりに、ネット社会のP2Pの関係においては、どの貨幣を使うかは自己責任となる。

  もっとも、私たち人間には複雑な計算はできない。その時々の市場状況や各貨幣の特徴を考慮したうえで、どの貨幣を使うか瞬時に判断できる端末がなければ、私たちには判断できない。・・・ということは、政府や中央銀行とかに頼らないかわりに、私たちのコンピュータ依存度はますますというか非常に高くなるということだ。

  結局、何かに頼らないと、生きていけないんだ。人間は・・・・。

参考文献: 1. John Matonis,Bitcoin’s Promise in Argentina, Forbes 4/27/13, 2. Stephen Filder, 一からわかるキプロス問題, The Wall Street Journal 3/22/13, 3. Ryan Tracy, Authorities See Worth of Bitcoin, WSJ. com, 11/18/13, 4.What Bitcoin Is, and Why It Matters, MIT Technology Review, 5/25/11, 5. James Surowiecki, A Brief History of MOney, IEEE Spectrum, 5/30/12, 6. Morgen E. Peck, Bitcoin: The Cryptoanarchists’ Answer to Cash, IEEE Spectrum, 7.Mikolay Gertchev. The Money-ness of Bitcoins, Mises Daily 4/4/13, 8. Why does Kenya lead the world in mobile money? , The Economist, 27/5/13, 9. Kat Ascharya, See How One Man Destroys the Need for Paper Money…With a Single Mouse Click, MOBILEDIA, 7/8/13, 10.「ポイント活用、年8万円得?」 に日経新聞 24/11/13, David G.W. Birch, There’s No Stopping the Rise of E-Money, IEEE Spectrum, 11. Noam Cohen, Speed Bumps on the Road to Virtual Cash

Copyrights 2013 by Kazuko Rudy, All rights reserved.

マーケティング NOW 2013




Backnumber

『マーケティング NOW 2013』のバックナンバーを読もう!

Training Information

おすすめ企業研修