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マーケティング NOW 2011

マーケティング NOW 2011

NOW3 なぜ、それに気がつかなかったのか? (サントリーの化粧品とマックのクーポン、そして石原都知事)

2011 年 3 月 9 日

サントリーが2010年3月に化粧品「F.A.G.E(エファージュ)」を発売しました。

 一流メーカーが、たいして差別化もされていない化粧品を手に、通販市場にぞくぞくと参入する状況には、はっきりいってあきれます。が、サントリーの新聞広告をみて、「さすがだな」と思いました。(って、広告を見てから一年たってから、書くなよ・・・ってつっこまれそうですが)。

 なにが「さすが」かというと、広告のヘッドライン。「60代。ハリは本当に無理でしょうか?」と、60代むけの化粧品だとはっきりと宣言したことです。いろいろテストをしているのでしょうが70代という言葉をつかっている広告も目にしました。

 中高年以上を対象とする広告の場合、年齢にはふれないことが常識でした。理由を2つあげます。

1. 女性をターゲットとしている場合、年齢を明らかにするのはタブー
2. たとえ、主要ターゲットが60代以上だとしても、それを明言して、売り手みずから門戸を狭めるのはバカげている。「お手入れで肌はまだまにあう」となんとなくぼやかしておけば、40代や50代でハリが気になっているひと(って、ほとんど全員だけど)たちが、注文してくるかもしれない。

 しかし、1番目のタブーに関していえば、これはすでにタブーではなくなっている。ファッション雑誌も昔は、結婚して子供ができたら「ミセス」とか「家庭画報」とかきまっていたが、いまでは、30代は「Very」、40代は「Story」・・・と年代ごとに異なる雑誌が発刊されている。、2007年には50代以上の読者のための「プレミアムクロワッサン」が登場し、2008年には「Hers」が創刊された。両雑誌ともに表紙モデルには50代以上のセレブをつかい、表紙コピーにも「50代は赤色がにあう!」とか、年齢がはっきりと書いてある。

 2番目のタブーについていえば、飽和状態にある通販化粧品市場のなかで、60代という言葉をつかうことによって他社ブランドと明確な差別化ができた。

 通販広告をだせばわかることだけれど、たとえば読売夕刊の東京版200万部にモノクロ一面広告を出したとして、注文してくれた客のその後1年間の平均累計購買金額と粗利益率を計算すれば、たぶん、注文率が0.01%~0.03%くらいならOKとかいう話ではないかと思います。

 通販広告を出して実感することは、ビジネスというのは、なんとわずかの割合の人間に強くアピールすることで成り立っているのかということです。新聞読者200万人のうち、年齢・性別上のターゲットが23%の46万人。販売商品の価格からして、そのうちの30%の14万人が購買確率の高い層。広告に注目してくれるのは、その半分だとして7万人。そのうち、実際に注文するという行動をとってくれるのは1%(600人)にも満たないのだ。

 通販広告のクリエイティブを考えるときには、「万人に受けようとか、みんなに好かれようなんて思わないこと」とよくいわれます。自分のターゲットに「あなたに話しをしてるんですよ!」とわかるような広告にしろともいわれます。考えてみれば、イメージ広告だって、同じことです。が、人間は、たとえ一部のひとたちからでも嫌われたくないので、ついつい、誰にも拒まれないような広告をつくってしまいます。

 そういった意味で、「エファージュ」の広告は、年代を書くことでターゲット客だけの注目を獲得しよう・・・という当たり前のことだけど、ちょっぴり勇気がないとつくれない広告です。「そうだよね。もう、年代を書いたっていいよね」と気づかせてくれました

 つぎは、マクドナルドの話です。

 マックのケータイクーポンの人気は高く、携帯クーポンメールに登録している数は2000万人。この数は外食産業のなかでも、あるいはTSUTAYAのようなレンタルショップと比べても、だんとつNo.1だそうです。マックは紙のクーポンを新聞チラシで配布もしています。が、紙のクーポンは印刷費を含めて経費が高く、2009年には18億円もかかりました。そういうこともあって、紙のクーポンの割合をへらし、2010年には、紙とデジタルクーポンとの比率は15%対85%になっています。

 デジタルクーポンにも2種類あって、注文するときに画面を店員に「見せるクーポン」と「かざすクーポン」があります。2008年から力をいれている「かざすクーポン」なら、読み取り機にケータイをかざすだけで、店員と話さなくても注文は完了し、厨房に注文内容が伝送される。支払いも電子マネーをつかう客なら、再度読み取り機にかざすだけですべてが完了。これは、接客時間の短縮から人件費の節約、そして利益の向上につながります。 

 そして、顧客も安い値段でバーガーが食べられる・・・と、ここまでが、よくいわれるクーポンがもたらすメリットだ。

 が、もうひとつ、大事なことがあります。

 それは、価格感度(価格感受性 price sensitivity)の高い客と低い客とを分けて、同じ商品を、異なる値段で販売できることだ。

 低価格でなければモノは売れない。だが、誰もが損する不毛な低価格競争にはおちいりたくない。だいたいにおいて、安くなければ買わないひともいれば、50円や100円の違いなど気にしないひともいる。そして、こういった価格感度は所得とか職業といったデモグラフィックなプロフィールとは、ふつうに考えられているほどには強い関係がないのです。

 売る側からの理想をいえば、価格感度の高いひとたち、つまり、安くなれば買う傾向が高くなるひとたちには割り引いて売り、価格感度の低いひとたち、つまり、安くしなても買う傾向に変化のないひとたちには定価で売る。これなら、増収増益を実現することができる。

 日本マクドナルドは、2007年に地域別に異なる価格で販売する戦略をとり話題になりました。地域別価格は、デマンドベースプライシング(demand based pricing 需要に基づくプライシング)のひとつ。デマンドベースプライシングのなかには、消費者の価格感度にもとづいて価格を上げたり下げたりする手法もある。

 地域別価格は日本ではあまり問題にならなかった。が、オーストラリアのマクドナルドは、2009年に、貧しい地域のバーガーの価格を高くしたと批判されました。そのとき、CEOが「その地域のひとたちがバーガーの値段が高すぎるからもうマクドナルドにはいかないということになれば、(デマンドベースプライシングの戦略にもとづいて、自然と)値段が下がります」と答えている。 (アメリカやオーストラリアでは低所得者層がファストフードを食べる頻度が多く、その意味で、ハンバーガーに対しての価格感度は低い。だから、低所得者層地域の価格が高くなったのだ。CEOの発言は、価格が高くなって来店客数がへれば、デマンドベースプライシング手法にもとづいて、自然と、価格はまた下がる・・・という意味)。

 デジタルクーポン配布による割引は、価格感度の高い客はクーポンをつかうし、低いひとは手間隙をメンドクサイと考えてつかわない。だから、誰がクーポンを使うか使わないか、また、その頻度によっても、客を価格感度で分けることができる。それによって、割引率や割引額を一人一人変えることもできる。

 デフレ環境で商売をするときに、客の価格感度のレベルを知ることは、利益を出しながら低価格商品を販売していくときに重要な情報となる。

 ただし、オーストラリアの例でもわかるように、デマンドベースプライシングは売り手にとっては理想的な戦略だが、へたをすると、消費者から不公平だと不満がでる。その点、クーポン、とくにデジタルクーポンだと、外部からは、どのような差別化がなされているかはすぐにはわからない。

 クーポンが各顧客の価格感度を知るデータ源になれることには、あまり、気がつかない。

 最後に、3番目の「なぜ、それに気がつかなかったのか?」です。

 3月3日付け読売新聞によると、東京都の石原都知事が4選不出馬の意向を自民党に伝えたそうです。そのとき、「東京の指揮官というのはいざというときに10階まで駆け上がらなければいけない。自分にはそれができない」と語ったそうです。

 企業の社長やCEOでいくつになっても辞めないひとがいます。老害だと陰で批判されても、自分は体力的には衰えていても、頭はしっかりしていると主張します。たしかに、頭脳が明晰かどうかの判断は、個人差もありむつかしいところです。しかし、しょせん脳は肉体の一部です。そして、いまは、グローバル時間で頭脳を働かせなくてはいけない時代です。夜中の三時に起きて重要な判断をしなくてはいけないかもしれません。体力がなかったら勤まりません。

 そういった意味で、「いさというときに10階まで(駆け上がらないまでも)休むことなく一気に登れる」かどうかは、不公平のない基準ではないでしょうか? 

 それができなくなったら引退する。「自分は年だけど、頼りにならない若いものよりはマシだ」とか、「経験やネットワークでも若いものには負けない」とか、あーだ、こーだとややこしいことを言わなくても、こんな単純な基準があったんだ!

 ・・・ということで、マーケティングは単純が一番! シンプルなことができないのは臆病になっているか(客を価格感度で分けるのもけっこう勇気がいります)、あるいは、考えすぎかどちらかですね。

 そして、同じく、引退するとかしないとか、自分の人生をきめるときも、単純な条件で線引きをするのが一番! うっう、オチのつけかたがちょっとクルシィ~(だいたい石原都知事もタヌキだから、ケムにまくようなことを言っておいて、ふたを開けたら、立候補しているかもしれないし・・・)。

参考文献:1.「石原都知事、4選不出馬・・・・自民に伝達」、読売新聞3/3 /11、2.ファストフード、もっと安く・・・携帯クーポン、会員向け充実」、日経新聞2/3/11、3.「売れない時代にファンを増やすサービスの染料力」、月刊激流 7/1/10、4.Michael Mullins, Burger bugger’s price hike spin, 3/2/09

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