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マーケティング NOW

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NOW20 不安な時代にGoogle TV?

2010 年 8 月 18 日

ぼくだってできるよ!
まるちたすきんぐっ!


Cc: meandmyboys.com / flickr

 もうすぐ秋・・・(って、この暑さ! 秋だって自分の出番を忘れてしまう)

 でも、まあ、この間、しおからトンボも飛んでたし。

 秋になると、インターネットTVと呼ぶべきか、あるいは、大型スクリーン多機能端末と呼ぶべきか・・・まあ、呼び名なんてどっちでもいーけど、Google TVが発売される。5月20日の新商品発表のとき、Googleの担当者が「アメリカ人は毎日5時間もTVを見るんだ」とさかんに強調していたように、アメリカではTV回帰が起きている。だから、Google TVの発売はタイミング的にも絶妙だと担当者は言いたいわけです。

 ニールセンの調査によれば(2009年四半期)、アメリカ人は一週間に35時間もTVをみている(過去最高だった2008年より1%増)。同じような傾向は日本でも見られ、スカバーJSATの調査によると(2010年1月ネット調査)、回答者の50%が家でTVを見る時間がふえたと答えている。英国でも、TVの視聴時間は1993年以降で最大となっているそうだ。

 90年代にインターネットが普及するとともに、TV・雑誌・新聞といったマスメディアは衰退の一途をたどってきたはず。なのに、なぜ・・・? 理由としては2つ挙げられる。

1. 不景気というか不安から「巣ごもり」しているからヒマ
2. アメリカでも日本でも、働き盛りの30代のTV視聴時間がふえている。 2010年になってからの東京首都圏での調査によると、一日当たりの平均TV視聴時間は、M1層(男性20~34歳)で2時間25分、F1層(女性20~34歳)で3時間4分となっている。休日はどちらも3時間半以上。M1、F1ともに「自宅で一番長い時間していること」は「TV番組を見ること」が「ネットを使う」を越えてトップに輝いた。  「ながら見」が多くなった
日本のメディア調査では、回答者の46%がTVを見ながらメールをしていると答え、44%がTVを見ながらネットをしていると答えている(デロイトトーマツコンサルティング調査2010年3月)。アメリカでも、ニールセン調査で、インターネットとTVを同時に利用する時間は前年に比べて35%増という結果になっている。

楽天やZOZOTOWNがTVコマーシャルでセールの宣伝をしたり、アメリカで家電量販店のベストバイがツイッターのアカウントをフォローするようにTVで宣伝したりするのは、まさに、この「ながら見」の風潮を考えたうえでのことだろう。

 不景気や不確実な社会に不安を感じて「巣ごもり」しているひとたちは、いわゆる(伝統的な意味での)「オタク」ではない。パソコンやケータイさえあれば何時間でも一人で過ごせるタイプではない。自宅で一人で過ごす時間が長くなると淋しくなる。誰かとつながりたくなる。これが、不安な時代に、ツイッターやフェースブックのようなソーシャルメディアが伸びる理由のひとつだ。しかし、パソコンやケータイを通じてのソーシャルメディアでの交際は、基本的に文章(テキスト)ベースだ。音がない。映像がない。パソコンやケータイでメールを送ったり投稿(ツイート)しているとき、人の話し声や笑い声が聞こえてくる。目をあげると、部屋の反対側に置いてあるTVでバラエティー番組が進行中。ソーシャルメディアとは違った形で、自分と社会とのつながりを感じることができる。安心感が増す。

 友人や家族にも見放されたような疎外感を味わっているときや、自分がどーしよーうもない人間だと自己否定の気分に陥っているときに、好きなTV番組を見ると淋しくなくなる・・・という心理学の調査結果が2009年に発表されている。それによると、落ち込んでいるときでも、好きなドラマの登場人物や番組のパーソナリティが、友人の代用の役割を果たし、視聴者の感情的ニーズを満たしてくれるらしい。

 つまり、視聴者は、音声や映像で聴覚と視覚を刺激するTVを通じて、画面上の人間と疑似友人関係を結ぶことができるらしい。それによって疎外感がうすらぐ。そういった意味で、TVもネットも見られるGoogle TVは、不確実で不安ないまの社会にぴったり? 少なくとも、「ながら見」族には最適なメディア端末だと期待されているようだ。

 とはいえ、これまでも、TVとネットの結合はいろいろ試されてきたが成功していない。ウェブサイト、TV放送、ビデオ、ソーシャルメディア・・・なんでも、ひとつに集めれば便利でよいというものでもない。「淋しいからながら見」の心理を分析すれば、端末が2つに分かれているからこそ、淋しい気持ちが軽減される・・・ともいえる。目の前のパソコンを通じて特定の友人とつながりながらも、ふっと目をあげれば、自分が属している社会を映し出しているTVがある。それが全部ひとつのスクリーンに集中されることは、機能的には便利だけれど、心理的には大きな違いがあるんじゃないかなあ~。端末が二つ以上あるから「ながら見」で、ひとつにまとめられたら、もう「ながら見」ではない。それは、「マルチタスキング」になる。

 「ながら見族」のなかには、淋しいから「ながら見」をするわけではなく、ただ単に「パソコンが次ぎのタスクに移るのを待っているのが退屈だから。数秒間の無為な時間がいやだからTVを横目で見る」という「無為を無駄な時間だとして嫌う」というひとたちもいます。こーゆーひとたちは、当然、マルチタスク機能をもったメディア端末が好みです。マルチタスクといっても奥が深いらしく、「iPadの欠点はマルチタスクができないこと」だとか、「iPhone4ではマルチタスクが可能になった。うれしい」とかいったコメントに反論して、「バッカだなあ。おめーら、マルチタスクの意味もわかんねーのか。iPadはむろん、いままでのiPhoneだってバックグラウンドでいくつかのプロセスを処理してるんだ。だからウェブサーフィンしながら音楽を聴いたりメールを受け取ったりできるんじゃねーか。これが、マルチタスクじゃなくて、何がマルチタスクなんだ!」という意見もあるようです。・・・・・ま、ど素人の私にはよくわかりやせんがね(ホタルノヒカリの干物女のまね)。

 そのど素人の私が(ネット上の)巷の意見を読んで気がついたのは、「画面がスプリットされていないとマルチタスクって実感がしない」と考える人が圧倒的に多いことです。これが、ユーザーの本音というか心理なんでしょうね。裏でマルチタスキングをしていても実感がわかない。画面の小さいケータイは仕方ないとして、ある程度の大きさの画面になったら、2つとか3つとか分かれてほしい。だから、iPadでは、すでに、画面を2分割してくれるアプリが登場しています(秋には、たぶん「実感できるマルチタスキング」を実現する新ヴァージョンが発売されるはずだというのに。待つのがいやなんでしょうね)。

 ここから、マルチタスクとiBrainの話しへと突入していきます。

 6月に「スティーブ・ジョブズ氏にiBrainを設計してもらおう」にも書いたように、わたしたちの脳はマルチタスクを得意としていません。

 ここで、きっと、ちゃちゃが入ると思います。「他の人は知らないけど、ボクは(私は)同時に2つくらいのことは平気でできるよ」・・・・それは、たんなる思い込みです。たしかに、歩きながら会話をすることは、あまり複雑な内容の話でない限り、可能です。それは、歩くという作業が無意識のうちにできる自動的(機械的)タイプのタスク(作業)だからです。それでも、議論が白熱してきたら(ということは、話すというタスクに注意が集中する)、早足で目的に向かって歩くことがむつかしくなるでしょう。文章を読んでその意味するところを理解するという意識を集中させなくてはいけないようなタスクが組み合わされると、たとえもうひとつのタスクが自動的なものでも、同時にすることはむつかしくなります。

 論より証拠。次のテストを受けてみてください。

1. 赤、緑、青、黄、緑、赤、青 (漢字を読み上げる)
2.  (漢字の色を読み上げる)

 2番目のタスクのほうが時間がかかるはずです。それどころか、間違った色の名を読み上げてしまうかもしれません。単語を読む作業は脳にとってはほとんど自動的タスクとなっています。が、2番目のタスクでは、単語の意味と色とが合致していないために、判断する作業に意識を集中しなくてはいけないので時間がかかるのです。

 このテストは米心理学者J.R.ストループが1935年に編み出したもので、この場合のように、ひとつのタスク(色を判断する)を実行するのには意識を集中しなくてはいけないのだが、そのためには、無意識の機械的タスク(字句を読む)を抑制しなくてはいけない。だが、そうすること、つまり自動的タスクを無視することがむつかしくて、結果、作業時間が遅くなる現象をストループ効果と呼びます。これが、脳のマルチタスキングに関する初期の研究です。

 その後の研究で、注意を集中しなくてはいけないタスクを2つ以上、同時にしようとすることは不可能だと、多くの心理学者や神経学者が考えています。同時にしていると思っていても、実際には交互に注意を払うようにしている。だから、時間が余分にかかるのです。たとえば、

 大阪大学大学院人間科学研究所の実験では、クルマを運転していて、前方を見ていて歩行者が飛びだしてきたときの反応時間は0.7秒。カーナビ画面で地名をチェックしてから視線を切り替えて2秒後に歩行者が飛び出てきた場合では0.9秒。視線を切り替えてから5秒くらい経過してからでないと、反応時間は 0.7秒には戻らない。でも、実験をした心理学者(篠原一光)によると、「注意能力が落ちていることを(本人は)自覚していない」そうです。

 大学生を対象にしたアメリカでの実験では、レポートを書くことと、eメールをチェックする2つのタスクを実行させる。が、Aグループではレポートを書き終ってからメールをチェックさせ、Bグループでは交互に実行させたところ、Bグループは作業完了にAグループの1.5倍も時間がかかりました。

 本を読んでそこから有益な情報を獲得したり、それを自分がすでに持っている情報と関連づけて、新たなアイデアを創造したりする作業をするには、そのタスクだけに専念する時間がある程度持続する必要があります。メールをチェックしたり、ツイートを読んだり、テレビを横目で眺めたりしていては、シングルタスクに集中することはできません。集中力を必要とする作業をメールや電話で中断されると、もともとのタスクの流れに戻るには20分くらいかかるという調査結果もあります。

 自分の脳はいくつかのタスクを同時にやろうとすると効率や創造性が落ちる。なのに、私たちは、なぜこうもマルチタスクできるメディア端末が好きなのでしょうか?

  1. 便利・・・・たしかに。
  2. 無為な時間を我慢できない・・・「マルチタスクだと、少し時間がかかるタスクを実行している間は、他のアプリケーションに切り替えればよい。イライラしながら待つ必要がない」といった意見が多い。最近気がついたのですが、人間ってIT機器相手だとやけに短気になりますよね。
  3. 退屈・・・・これは、画面が2つ以上に分轄されて、実際に自分の目でマルチタスキングしているのを見たいという願望にも関係している。「ケータイのような小さな画面ならシングルタスクも耐えられるけど、iPadくらいの画面になったらちょっと・・・。大画面が無駄な感じがする」という意見も多い。
  4. マルチタスクを使いこなしていると、なんだか、自分の能力が高いような気がしてくる・・・・これって、グローバル企業の社員で、海外をいったりきたりして、実際には時差ぼけで頭があまり働いていないはずなのに、昨日ニューヨーク、今日上海っていうアクティブな行動をしているってことで、自分をやり手のビジネスマンだと錯覚しているのと似ていると思いませんか? 時差ボケした頭で正しい意思決定ができるとは思えない。 同じように、マルチタスクは脳に負担をかけ、創造性をそこなっているというのに、IPadを手のひらや指先で操作して次から次へとタスクを変えている自分が、なんだか偉く見えてくる。
  5. iBrainの記事で書いたように、脳は新しい刺激(情報)が大好物で、すぐに飛びつくのです。だから、レポートを書いていても、メールが着たらすぐにチェックし、だれか自分のブログにコメントしていないか常に気になるのです。私たちの脳は、マルチタスキングの能力が備わっていないくせに、マルチタスクしたがるのです。

 こういった流れになってくると、マルチタスキングを促すiPhone4、今秋発売予定の新ヴァージョンのiPadやGoogleTVなどが、よってたかって、私たちを「おバカ」にしてしまうのではないか? きちんとした作業に神経を集中できない中途半端な人間にしてしまうのではないか? という結論になってしまう。実際、新しいメディア端末への批判や懸念を口にする評論家は少なくありません。が、そういった批判に、ハーバード大学の心理学者(日本でも進化心理学関連の本がいくつか出版されている)スティーブン・ピンカーは、6月10日付けの「ニューヨークタイムズ」で反論しています。その内容を私流にまとめてみると・・・

「いつの時代でも、新聞とかTVとか新しいメディアが登場するたびに、一般市民のブレインパワーやモラルを堕落させるものだ非難されてきた。パワーポイントのような電子技術や検索エンジンなども、インテリジェンスを貶め、表面的知識をすくいとるだけで深みを探求する努力を放棄させる。そして、ツイッターは注意力が持続できる時間を短縮してしまうと槍玉に挙げられ非難されてきた。しかし、過去を振り返って考えてみてほしい。TVが登場して以降、、科学の進歩は止まっているだろうか? 哲学、歴史、文化を批判し評論するインテリジェンスは落ちてきているだろうか?」

 たしかに・・・、日本でも、TVが普及した1950年代半ばに、大宅荘一っていう社会評論家が「一億総白痴化」って批判したこともあったっけ。だけど、TV大好き人間の私としては、この意見にはまったく賛成できまっせん!

 いつの時代でも、新しいものは大人に批判される。だから、スティーブ・ピンカーは、いつの時代にも通用するアドバイスを書いている。

 「何かひとつのことを達成しようとするなら、自己管理しかない。なにかに集中するためには、メールやツイッターをオフにする。食事をするときにはケータイを持たない。自己管理できない人間は、メディア端末があろうとなかろうと、神経を集中する必要があるタスクを完成することはできないはずだ。メディア端末のせいにするのはおかしい。 それは、ダイエットできない人間が、新しいタイプのデザートが次から次へと登場することさえなければ、ダイエットに成功することができるのに・・・と嘆くのと同じだ」

 たしかに正論ですけどね。でも、正論すぎて、役立つアドバイスにはなりません。大半の人間は自己管理できないから、世の中にはダイエット本があふれるているわけで。「わかっちゃいるけど、やめられなくて」、つい、動画をみたり、メールをチェックしたりするんです。私も自分の自己管理能力を信用していないから、チョコレートは家には絶対買い置きしません! それから、ケータイのメールアドレスは誰にも教えてません(って、なんじゃこりゃ?!・・・・太陽のほえろのジーパン刑事のまね)

参考文献: 1.「ながら作業で注意不足」、日経新聞 9/25/2006、2.「若者は”テレビ離れ”していない」、cnet Japan、3, Klaus Manhart, The Limits of Multitasking, Scientific American Mind 2004, 4,Steven Pinker, Mind Over Mass Media, The New York Times, 6/10/2010, 5, Flonnuala Butler, Imaginary Friends, Scientific American, 7/28/09, 7,Brandon Keim, Multitasking Muddles Brains, Even When the Computer Is Off, Wired Science, 8/24/09

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