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マーケティング NOW

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NOW16 「若者」は本当に変わったのか?

2010 年 3 月 10 日

最近の年配は…
     by 草食系


Cc: xlordashx / flickr

最近、「若者」本が流行っている。「今の若者たちが以前とは変わった」ことについて書いてる本で、きちんとした調査にもとづいて今どきの若者像を明らかにしている本もあるし、ケータイ世代の若者たちの生活をルポルタージュ風に描写している本もある。

 調査も突撃ルポもしないナマケモノの私は、そういった本を読んで勉強するだけなのだが、数冊完読して、ふと気がついた。

 どうして、私たちは、若者たちのことがこれほどまでに気になるのか?

 この風潮はいまに始まったことではない。80年代初めには「新人類」という言葉が流行って、いまの「草食男子」に負けないくらいマスコミに騒がれた。この2つの新語ほどには注目されなくとも、その年の新入社員の特徴に「カーリング型」とか「エコバッグ型」とかニックネームをつけるのは毎年の恒例だ。また、ゆとり教育を受けた「ゆとり世代」とか、「バブル世代」「氷河期世代」とか、新しく社会に参加してくる世代に名称をつけて、その特徴を列挙するのも大好きだ。

 しかし・・・だ。

 マーケティングの観点からいえば、いまの日本の人口統計や消費支出を考えると、シニア層のほうが圧倒的に重要だ。電通が2000年に発表しているシニア市場の規模推計によると、2015年には、50歳以上の日本人の消費支出は日本人全体の消費支出の52%を占める。65歳以上に絞っても24.6%を占めると予測されている。

 2009年9月現在の人口統計をみても、持ち家率が85%になり子供もある程度独立して可処分所得も多くなり始めるヤングシニア(50歳~65歳の15歳の幅)の人口は総人口の 21%。これは、若者(高校生の15歳から34歳までの20歳の幅)の22%とほとんど変わらない。だが、こういったヤングシニアやオールドシニア(総人口の23%)について書かれた本がベストセラーになることはないだろう。新しく年金をもらい始める60歳や65歳に、今年の新老人世代の特徴をうまく表現するニックネームをつけるなんて習慣も始まらないだろう。

 高校生が自分たちだけに通じるようにつくった新語(メアド、キャラ、マイミク、ガチ、マジ・・・)を使ってぺちゃくる会話が紹介されているページを物珍しげに読むことはあっても、60代後半の夫婦の、自分たちだけに通じる「あれ」とか「これ」が多頻度で登場する間(マ)の長い会話が紹介されているページを、あなたは興味を持って読むだろうか?

 女子大生がケータイ電話を3台持っていて、1台は親から支給されたもので料金は親持ち。2台目はカレシとの専用で親にナイショだから料金は自分で払う。3台目はケータイ費用を稼ぐためにバイトしているスナックのお客さんとの会話用・・・・・そういった女子大生の実態を読むのはちょっと面白い。だが、70代の老人がケータイを2台もっていて、そのうち1台は同居している息子夫婦にはナイショでつきあっている(デイケアセンターで知り合った)老女と話すためのケータイ・・・といったシニアの暮らしの実録を、あなたは、女子大生に対するのと同じくらいの関心をもって読むことができるだろうか?

 そういった本を、自分の今のビジネスに直結でもしない限り、お金を出して買うだろうか?

 「いまどきの老人は以前とは変わった」という本は、若者本ほどには売れないだろう。

 なぜなら、人間は・・・というか動物は・・・というか生物は、自分の親より上の世代には関心がもてないようにできているのだから。

 進化生物学者のリチャード・ドーキンスが主張するように、人間は(生物は)自分の遺伝子を後世に遺すようにプログラムされているわけで、結果、自分の遺伝子を後世に繋いでくれる子孫たちの世代の言動に非常に関心があるのだ。親が、子供の結婚を望み初孫を望むときに、「早く安心させておくれ」という言葉を使うのは、まさに、その言葉どおりの意味なのだ。自分の遺伝子が受け継がれたことに安心して、「これで、いつお迎えがきてもいい」とある意味本心でそう思うのだ。

 ・・・・ここで、やっと、「今の若者たちは本当に変わったのか?」の本題に移ります。

 親や祖父の世代が、「ちかごろの若者ときたら・・・」と嘆息まじりにグチるのは世の常だ。子供は(とくに男子は)親に(とくに父親に)反抗する形で育つ。よって、先行する世代の特徴への反動の結果として次ぎの世代がつくられる。だから、単純にいえば、保守的世代の後には革新的世代が、そして、革新的世代のあとには保守的世代が続く・・・・という説がある。そういった説に沿った調査で、アメリカには、1620年に英国からの移民が始まってから現在までの約400年の間に19の世代が存在している。が、それは4つの元型に分類することができ、それぞれが1回の例外を除いて同じ順番で続いている・・・・という研究も発表されている。つまり、Aタイプの世代の後にはBタイプが続き、Bタイプの後にはCタイプが、そしてその後にはDタイプの世代が続き、その後、またAタイプに戻り、前と同じサイクルが続くということだ。

 2009年に発表された米論文では、18歳から24歳のころに不況を経験することは、その世代の価値観や態度に生涯にわたる影響を与えることが調査で明らかにされている。いまの日本でも、経済的理由で大学進学をあきらめる18歳、あるいは、就職できない高卒や大卒の若者が多い。彼らの生涯にわたる価値観や態度は、こういった経験によってつくられる・・・わけだ。

 上の2つの研究をまとめると、新しい世代は15歳くらいまでには、親の世代への反動の結果としての特徴をはぐくむようになり、そして、18歳から24歳の時期にどういった景気サイクルに直面したかによって、その後の生涯にわたる価値観や態度、ライフスタイルをつくりあげる・・・・ということになる。

 考えてみると、現在30歳のシニアの若者は、1992年にバブルが崩壊したあとの1998年に高校を卒業している。30歳以下の若者たちは、バブル崩壊以降、20年にわたる景気低迷の中で(2002年から5年ほど続いたいわゆるイザナミ景気は好況感なき景気といわれる)、18歳から24歳を過ごしている。一方で、その若者たちに先行する上の世代は、高度成長時代やバブル景気に大学進学や就活を経験してきている。そういったイケイケ世代が、今の若者たちをみて、「元気がない」とか「保守的だ」とか「消費に積極的でなくて貯金に熱心だ」と、自分たちが若かったころと比較して思うのは当然だろう。

 ブランドを買わない、ブランドに関心がない・・・と言うけれど、たしか、バブルのころの若者たちは、その上の世代に、「日本人は10代20代の若者が高級ブランドを平気で買う。こんなことは欧米先進国では見られない。欧米では、自分の金で買えるようになる本当の意味での大人になって、初めて、高級ブランドを買う。日本も、もっと成熟した大人の文化を・・・・」と批判されたのではなかったのか? 上の世代に批判された世代が、いま、「最近の若者はブランドを買わない」とか「貯金が好き」と不思議がるのは、ちょっとおかしい。大学生はむろんのこと、社会人になったばかりの若者が安いモノを買うのは当たり前。将来のことを考えて貯金するのも当たり前。ある意味、これでやっと、「欧米先進国」の若者たちのライフスタイルや価値観に近づいた。いまの日本の若者は「大人」になったもんだ・・・・と誉めるべきところだろう。

 男が甘いものを食べるようになったと騒がれているようだが、これも、おかしい。男は・・・というか人間はもともと砂糖は大好物なのだ。人間の脳はどの臓器よりも多くのエネルギーを消費し、その主要なエネルギー源はぶどう糖。砂糖は分子構造が単純で、食べると小腸で消化吸収され、成分のぶどう糖は数十秒後には血液を介して脳にすばやく供給される。日本には甘いものを好きなのは男らしくないという文化的制約が存在していたから(そういった文化的制約がないアメリカでは、男は朝から甘いものを食べる)、「オレは甘いものが好きだ」と公言しなかっただけだ。昔から、家では、母親や奥さんが買いおきしていた甘いものを家族といっしょに食べていた。

 江崎グリコが職場に100円菓子の入った専用ボックスを設置して購入者は代金をボックスに入れればOKの置き菓子システム「オフィスグリコ」を始めたのは2002年。2008年の売上は30億円で、利用者の7割が男性とか。が、ここで、男が甘いものを食べ始めた!と早合点をしてはいけない。昔、オフィスでは休暇帰りとか出張帰りにお土産を買ってくる習慣があり、3時のおやつどきになると毎日のように自分のデスクの上に地方のお菓子が置かれていたものだ。だが、泊まりの出張が少なくなったいま、配給されるお菓子の数は激変しているという(オフィスグリコの売上は、1月の第2週にぐっと落ちる。お正月に帰省した人が土産のお菓子を持ち帰るからだ)。昔は、また、お茶くみ専用の女子社員がいて、部長が「お菓子でも買ってきてみんなに配って」とか言ってお金を渡す習慣もあった。だが、お茶くみ専用の女子社員がいなくなったいま、そんなお茶の時間もなくなった・・・という。

 つまり、男性は自分でお菓子を買わなくてはならなくなったのだ。だから、置き菓子を買うし、コンビニで甘いものを買うようにもなった。男も甘いものは昔から食べていた。違ってきたのは、自分で購買しなくてはいけなくなったことだ。だから、男とスイーツの関係が以前よりも目立つようになった。

 ・・・・こんなにふうに、「いまどきの若者の特徴」の多くは、経済的理由とか文化的制約、習慣の変化などで説明できる。が、ただひとつ、説明のつかない特徴があり、それは、若者が根本的に変わったかもしれないことを意味している。

 いまの若者は「異性との交際に興味がなくなってきた」という。この特徴は、景気サイクルや文化的制約や習慣の変化では説明できない。リチャード・ドーキンスを再度引用すれば、人間は(生物は)次ぎの世代を残すために生まれてきているのだ。異性に関心がなくなり、セックスをしなくなれば、当然のこと、子孫は生まれなくなる。異性との交際に無関心ということが事実なら、いまの若者たちは生物の(人類の)本能を持っていないことになる。これぞ、まさしく、本当の意味での「新人類」の登場だ。そして、新人類は絶滅の道をたどる運命にある。

 歴史人口学を専門とする鬼頭宏教授によると、日本が人口減少社会に入るのは、歴史上、4度目のことだそうだ。

  1. 縄文後半(気温が下がり食糧が減少。ピーク時には26万人あった人口が8万人まで減少)
  2. 平安時代中・後期(人口が増えない状態)
  3. 江戸時代中・後期(人口が増えない状態)
  4. 現在(幕末に3200万人だった人口は明治時代から一貫して増え続ける。が、2005年から減少し始める)

 比較経済史専門の川勝平太教授の説によると、人口が増大する時期は新しい文化やシステムが導入され、男性の労働力が価値を持つ荒々しい時代(たとえば、江戸前期の都市建設や明治時代の富国強兵から戦後の重工業産業推進政策)。反対に、人口が減少する時代は平和で文化が成熟する時代(たとえば平安中期の女流文学の隆盛、江戸時代中期からの町人文化の成熟)。人口減少時代にはハードよりもソフトの発展。産業でいえば、工業からサービス産業への転換。よって女性の役割が大きくなる・・・・そうです。

 その説にそえば、ひとあたりがよくて繊細な草食系男子は、今の時代、サービス産業中心の時代への適応化現象のひとつだということもできる。最近、本当に思うのです。男性店員の態度のよいこと! 電気やガスの修理の男性だって、無愛想でつっけんどんだった昔に比べたら本当に愛嬌がある。

 って、話がそれましたが・・・・、たしかに、人口が減少しているいま現在、文化が成熟しているといえないわけではない。東京はミシュランガイドブックの星の数の合計が世界一多い都市。つまり食文化は成熟しているってこと。それに、アニメやオタク文化に原宿や渋谷発信のカワイイ・ファッション。

 問題は、再び、男らしさが求められる荒々しい時代がやってきて、人口が増加に転じるかどうか?ってことですね。あるいは、これまでの歴史を塗り変え、女性が活躍する平和な時代においても人口が増加するような新しい現象が生まれるかどうか?ってことですね。

 どちらにしても、今日はここまで・・・。こんなに長いブログ、書くほうも疲れましたが、読むほうも、ほんとにどうも「お疲れさま~」でした。

参考文献:1.川勝平太「女性の活躍で人口減克服」、日本経済新聞 4/17/09 2.亀頭宏「減少期に文明は成熟、女性の役割大きく」、日経新聞01/07/10、 3.「タバコ代わり、男性、息抜き」日経新聞 2/1/09, 4.Paola Giuliano, Antonio Spilimbergo、The long-lasting effects of the economic crisis、VOX 9/25/09

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